【映画レビュー】二郎は鮨の夢を見る ／ Jiro Dreams of Sushi

ミシュラン三ツ星で知られる銀座の名鮨店「すきやばし次郎」。
この「すきやばし次郎」の店主・小野二郎氏とその仕事ぶり、そして小野氏の二人の息子さんの仕事に迫るドキュメンタリー映画『二郎は鮨の夢を見る』が登場しました。

仕込みでは徹底的に手をかけながらも、いざお客さんの前に供する際には、すべてをそぎ落として徹底的にシンプルな形で供される「すきやばし次郎」の鮨。
この作品は、そんな「すきやばし次郎」の精神に相応しい、余計なテロップや人物紹介などをすべて省いた演出が施されています。

最初はこれがどのような人物かわからないけれど、見ていくうちにすべてが理解できるように作られている…、まさに「すきやばし次郎」を紹介するのに相応しいドキュメンタリーと言えるでしょう。
（まあ、人物名や肩書きなどのテロップなどがないので、登場人物の関係などがわかりにくかったりもするのですけどね。。。）

「すきやばし次郎」の初代店主である小野二郎氏は、87歳の現在でも現役で板場に立ち続けています。

「仕込みは全部若いのがやって、自分は最後にお客さんに出しているだけ。楽してるよ」
そんな風に語る次郎さんですが、弟子たちが仕込んだ食材の仕上がりは厳しくチェックしています。
仕込みは弟子たちの仕事ですが、お客さんに出すための最終責任者は、やはり次郎氏なのです。

そんな次郎氏には、二人の息子がいます。
一人は、本店店主として父と共に本店を支えている長男の禎一氏。
彼自身、既に店をしょって立つ腕を持つ一流の鮨職人ですが、絶対的な存在である父を支え、彼の影響化にある本店で共に日々の仕事をしています。

そしてもう一人は、ミシュラン二つ星を獲得している六本木店の店主である隆士氏。
本店とシンメトリーになっている六本木店で、「本店は敷居が高くて」と言うお客さんたちに、本店より少しリーズナブルにお鮨を提供しているのです。

このドキュメンタリーは絶対的な実力者である偉大な父と同じ道を選び、兄弟二人で切磋琢磨しながら職人として生きる息子たちの関係性も浮き彫りにしていきます。
実は、本作のデヴィッド・ゲルブ監督は、ニューヨーク・タイムズの元編集長で作家であるアーサー・ゲルブ氏を祖父に、メトロポリタン・オペラの総帥であるピーター・ゲルブ氏を父に、映画監督であるマシュー・ゲルブ氏を兄に持つ人物。
偉大な祖父や兄を超えたいという気持ちを抱えている監督だからこそ、二人の兄弟の心情を引き出すことができたのだろうと思います。

この作品を観ていて興味深かったのは、以前映画『エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン』で観た、天才的料理人・フェラン・アドリアが料理長を務めていた、今は亡きスペインの名レストラン「エル・ブリ」との違いです。
「エル・ブリ」には、一年ごとに世界各地からいろんな国の若きシェフが修行にやってきます。
「エル・ブリ」は、夏の間だけオープンしそれが終わると閉店し一年後に再開するというスタイルなので、そういう形になっているとも言えるのですが、シーズンごとにある程度腕のあるシェフたちが数多く集まり、切磋琢磨しながら仕事を続けていくのです。
そして、数人の中心的なシェフ以外はシーズンが終わると解散し、自らの腕で新たなレストランで仕事をすることになります。

それに対し、「すきやばし次郎」では、入ってきた若い職人を、一からみっちり仕込みます。
次郎の職には、10人に満たない少数精鋭。
そして、10年かけて一人の職人を、一人前の鮨職人に育て上げていくのです。

同じ“天才的料理人”を頂点とするレストランでありながら、二つのレストランは対照的な姿を見せています。
この徒弟制度の在り方も、“鮨”という日本の伝統的な食文化に相応しいものなのだろうなあと、しみじみ感じたのでした。。。

うーん、それにしても、一度でいいから「すきやばし次郎」のお鮨を食べてみたい。。。
六本木店でいいから、誰か連れて行ってくれないものかしら。。。