セイジ陸の魚

2012/1/27 日本映画さ行, 映画レビュー

「NHKドラマスペシャル白洲次郎」での白洲次郎役、「龍馬伝」での高杉晋作役などで知られる俳優・伊勢谷友介の8年ぶり2作目となる監督作『セイジ陸の魚』。

20年前の山間のドライブインを舞台に、人生の波間をたゆたっているような登場人物たち過ごす一夏の模様を描いています。

新人監督（というか、若手監督？）の作品にありがちな映像なども散見されますが、そのあたりは監督のチャレンジ精神というところでしょうか。
監督自身が俳優をしているだけあって、役者陣の演技はさすが。
特に西島秀俊の凄みあふれる演技は、『CUT』に通じるものがありました。

＜STORY＞
大学生最後の夏、僕は自転車で旅に出た。しかし、ある山道で車と衝突し、自転車が破損。車を運転していたカズオに連れて行かれたドライブイン“HOUSE475”でなんとなく働き始める。離婚の慰謝料代わりに建物をもらった翔子が経営している“HOUSE475”は、雇われ店長のセイジを慕う常連客たちで賑わっていた。僕は、寡黙なセイジがたまに放つ鮮烈な言葉に惹かれ、彼に興味を持ち始める。その頃、村には無差別連続殺人犯がやって来ていた…。

＜Cheeseの解説＞
20年前の一夏を過ごしたドライブイン“HOUSE475”に、大人になった“僕”が再び訪ねていくというシーンから始まる本作。
日本は未だバブル景気の中にあり、なんとなく就職も決めてしまった“僕”は、最後のモラトリアムをこの“HOUSE475”で過ごすことになります。

“僕”を演じるのは、森山未來。
そのちょっとボーッとしたとっぽい雰囲気は、まさにモラトリアムの中にあり、夢も目標もない大学生にぴったりです。

その“僕”が“HOUSE475”で出会うのは、この土地に流れ着き、そこで暮らしている男・セイジです。
セイジを演じる西島秀俊は、何を考えているかわからないような、寡黙だけれども心に何かを秘めた男。
“僕”はセイジの過去の映像を見て、何も語らない彼のことを深く知りたくなっていくのです。

この作品を観て、私は映画『CUT』の彼を思い出したのですが、西島秀俊本人にとっても、この作品で演じたセイジと『CUT』で演じた秀二は兄弟のようなところがあるそう。
『CUT』の撮影後、すぐに本作『セイジ陸の魚』の撮影に入り、その後また『CUT』の追加撮影をしたということです。
『CUT』の秀二の、肉体的にも精神的にも限界まで研ぎすませた雰囲気が、そのまま本作のセイジにも現れているということなのでしょう。
『CUT』で見せた、あの素晴らしい筋肉美もそのまま観ることができます。

“僕”を演じる森山未來も、本作のロケ場所である山奥のドライブインまで、実際に東京から一人で自転車で旅をしてやって来たとか。
そんな役作りを経て“僕”になりきった彼は、モラトリアムの中にありながらも何かをしたいとあがく“僕”を、見事に表現していると言えるでしょう。

西島秀俊、森山未來という二人の俳優が、自分を追い込んで役になりきった本作、俳優たちの化学反応がそのまま楽しめるような作品です。
監督である伊勢谷友介も、そのまま俳優たちのケミストリーを楽しみながら撮影した作品なのではないでしょうか。

『セイジ陸の魚』（108分／日本／2011年）
英題：FISH on LAND
公開：2012年2月18日
配給：ギャガ、キノフィルムズ
劇場：テアトル新宿ほかにて
原作：辻内智貴
監督：伊勢谷友介
出演：西島秀俊／森山未來／裕木奈江／新井浩文／津川雅彦／滝藤賢一／二階堂智／渋川清彦
公式HP：http://seiji-sakana.com/