生きてるものはいないのか

石井聰亙改め石井岳龍監督の約10年ぶりの監督作となる映画『生きてるものはいないのか』

原因もわからないままに、人びとが次々に死んでいくキャンパスの中で、生き残っている人びとの行動を描いています。
原因を究明しようとするのでも、死に立ち向かおうとするのでもなく、ただ“淋しくない死に方”を求めてさすらう人びとの姿は、ひじょうに日本的だなあと思ったのでした。

<STORY>
ある大学のキャンパス。喫茶店では、婚約中の男女とその男の子どもを身ごもっているという女が、今後のことについて話し合っていた。店員のケイスケは、彼らの話をただ聞いている。どうやら大学の近くの駅で人身事故が発生したらしい。大学の付属病院の地下にまつわる都市伝説の話をしていた女子大生が、突然激しく咳き込んで死亡する。彼女の友だちも、やがて死亡する。しばらく後、キャンパスは突然死していく人びとで溢れていた…。

<Cheeseの解説>
石井岳龍監督が前田司郎の戯曲を映画化した本作。
確かに、細かく不条理な会話の数々などは、『大木家のたのしい旅行 新婚地獄篇』などに通じるものを感じさせます。

石井監督は、自身が教鞭をとっている神戸芸術工科大学を舞台に撮影を行い、キャストやスタッフとして同大学生や卒業生総勢50人を起用しているそうです。
どうりで、ちょっと音声が聞きづらいところもあったり、演技が稚拙なところもあったりします。
しかし、今の日本映画界でも問題となっている若手育成には、若い映画製作志望者をこういった商業映画に関わらせることは、大きな意味を持つものだと思います。

この映画に登場する、三角関係のカップルと女子大生、病室を抜け出す少女、都市伝説を語る学生たち、結婚披露宴の余興のダンスを練習する学生たち、妹を探す男、三角関係の学生と喫茶店員、医療事務員と彼女に片思いしている耳鼻科医、“東方見聞ロック”というアイドルのメンバーでもある大学生、息子を捜す母親たちは、みんなどこにでもいそうな普通の人びと。
ヒーローがいるわけでもなく、リーダーがいるわけでもなく、みんなてんでんバラバラに行動し、生き残ろうとする努力をそれほどすることもなく、いつの間にか死んでいきます。
そのあたりが、同じパンデミック・ムービーの中でも、ハリウッド映画である『コンテイジョン』などとは大きく違うところですね。

戯曲自体はずっと以前にできあがっており、映画も東日本大震災の前に企画されたものだということですが、リーダー不在、ヒーロー不在でみなが不安の中に生きている現代の日本と、奇妙にリンクしているように感じます。
最近よく映画を観ていて感じるのですが、現代日本では、現実が虚構を追い越しているということなのでしょうね。。。

『生きてるものはいないのか』(113分/日本/2011年)
公開:2012年2月18日
配給:ファントム・フィルム
劇場:ユーロスペースほかにて

原作・脚本:前田司郎
監督:石井岳龍
出演:染谷将太高梨臨/白石廿日/飯田あさと/高橋真唯田島ゆみか池永亜美/札内幸太/長谷部恵介/師岡広明/羽染達也青木英李/田中こなつ渋川清彦/津田翔志朗/芹澤興人/杉浦千鶴子/村上淳
公式HP:http://ikiteru.jp/

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