【映画レビュー】1941 モスクワ攻防戦80年目の真実 / Podolskiye kursanty
第二次世界大戦の天王山のひとつとも言われる「モスクワ攻防戦」。
このモスクワ攻防戦の知られざる事実を描き、戦争の英雄たちが経験した現場を再現して見せたのが、この映画『1941 モスクワ攻防戦80年目の真実』です。
まだ実戦経験もない士官学校の士官候補生たちを主人公とする本作、戦争の悲惨さをこれでもかと描き出します。
しかし、描かれているのはそれだけではありません。
そこに映し出されているのは、まだ若い士官候補生たちの友情や看護師をはさんだ三角関係、親子愛、そして過酷な戦場を経験したことによる変化。
冒頭で描かれる若者たちの生命の輝きがまばゆいがゆえに、後半の悲惨さが際立ち、戦争の無意味さや非情さが強く感じられるのでした。。。
STORY
1941年10月。ソ連のポドリスク兵学校に通う士官候補生や看護師たちに、実戦への出兵命令が下る。現在、ナチス・ドイツの大軍がモスクワを目指してロシアに侵攻して来ていたのだ。彼らの任務は、増援部隊が到着するまでドイツ兵を食い止めること。士官候補生のラヴロフやディミトリ、看護師のマーシャら3500名は、イリンスコエ防衛ラインへ向かった。行軍の最中、ドイツの航空機が彼らの上空に現れ、彼らの上に爆弾が降りそそいだ……。
解説
2020年にロシアで制作された本作。
戦争映画として、近年のアメリカ、イギリス製作の映画をものすごく研究した作品であるように思います。
戦車映画の『フューリー』、戦場映画の『1917 命をかけた伝令』、第一次世界大戦時の陸・海・空軍映画『ダンケルク』などなど……。
ヴァディム・シメリェフ監督は祖国の知られざる英雄たちの物語が「西側の物語に負けてはいられない」とばかりに、徹底的なリアリティをもって、すさまじい戦争映画を作り上げました。そして、すさまじい戦争映画であるが故に、すさまじいエンターテインメント作品に仕上がっているのです。
この作品で描かれているのは、これまであまり知られていなかったモスクワ攻防戦の悲劇。
イリンスコエ防衛ラインにて、ポドリスク兵学校の士官候補生3500人が戦い、2500人が命を落としたということ自体はこれまでも知られていたそうです。しかし、彼らの戦いがここまで陰惨を極めたものだったことは、あまり知られていませんでした。
しかし、ロシア国防書が機密解除した文書・資料によりその事実が世に知られることとなりました。
この作品の脚本はこれらの資料に忠実に、知られざる英雄たちの死の模様を、スクリーン上で明らかにしたのです。
そして製作陣は、この作品の撮影のために、巨大なセットを建造しました。
まさにイリンスコエ防衛ラインのあった地、現在は住宅地となっている元の場所から少し離れた場所に当時の航空写真に基づいて村、道路、橋、人工の川などを建造したそう。さらに、ソ連・ドイツ両軍の戦車や装甲車、大砲、兵器など、博物館に保存されている本物を使用し、1941年当時をそのままに再現したのです。
そして、その当時のままの情景を、さまざまな映像技術を駆使し、ドローンや手持ちカメラを使って臨場感たっぷりの戦場として映し出しました。
私が圧倒されたのは、彼らが任務地へ向かう最中に、最初に空爆を受けた際の描写です。
手持ちカメラを駆使した長回しで奇襲に混乱する兵士たちや炎上する軍用車の様子を描き、観客を一気に戦場に連れて行ってしまいます。あの瞬間に、これまで学生だった彼らは兵士となり、観客も戦場に連れて行かれてしまうのです。
この臨場感あふれる戦場描写は、まさにロシアの本気。
祖国の英雄たちの死を、悲劇的に、しかしエンターテインメントたっぷりに描きだし、彼らの活躍を永遠のものとして見せてくれました。
作品情報
『1941 モスクワ攻防戦80年目の真実』(142分/ロシア/2020年)
原題:Podolskiye kursanty
英題:The Last Frontier
公開:2021年11月19日
配給:アルバトロス・フィルム
劇場:全国にて
監督・脚本:ヴァディム・シメリェフ
製作・脚本:イゴール・ウゴルニコフ
音楽:ユーリ・ポテイェンコ
出演:セルゲイ・ボンダルチュク/グラム・バブリシヴィリ/アルチョム・グビン/リュボフ・コンスタンティノワ/イゴール・ユディン/アレクセイ・バルデュコフ/エフゲニー・ディアトロフ/セルゲイ・ベズルコフ/ロマン・マディアノフ/エカテリーナ・レドニコワ
Official Website:https://1941.jp/
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