【映画レビュー】味園ユニバース

2015/1/12 日本映画ま行, 映画レビュー

山下敦弘監督の新作映画『味園ユニバース』。
この映画、別に個人的に何か繋がりがあるわけではないんですけど、とても感慨深い気持ちで観ていました。

というのも、私、山下監督や赤犬と同じ学校で同時期に同じキャンパスに通っていたはずなんですね。
で、赤犬が学内でライブをやっていたのを見たりもしていたので、「あの赤犬が、こんなメジャーに…」と、もう昔の友人のような気分になってしまって。。。
（リアルに友人というわけでは、まったくないんですけどね）

味園ユニバースこそは行ったことがなかったけれど、千日前やなんばは、学生時代よくウロウロしていたなあ。。。
というわけで、まあ、この作品には個人的に思い入れがあったりします。

でも、そんな個人的な事情は抜きにしても、ラストシーンがとても心に残る、余韻の深い映画でした。
ポチ男。。。（泣）

＜STORY＞
バンド「赤犬」の公園でのライブ中に、傷だらけの若い男がフラフラと現れる。マイクを奪った男は見事な声量で「古い日記」を歌い、バタリと倒れてしまう。その男は記憶喪失で、名前や素性もわからない。赤犬のマネージャーを務めるカスミは、その男をポチ男と名付け、スタジオを経営する自宅に連れ帰り、一緒に暮らし始める。その頃、赤犬のボーカルが交通事故に遭ってしまう。カスミと赤犬は、ポチ男を新しいボーカルに抜擢するが…。

＜解説＞
関ジャニ∞の渋谷すばるの映画単独初主演作となる本作。
歌以外の記憶を失った青年・ポチ男が、二階堂ふみ演じるカスミや、バンド・赤犬と音楽をするうち、記憶を取り戻していく過程を描いています。

物語の鍵となるのは、やはりポチ男の正体。
彼は、記憶を失った状態でフラリと公園に現れ、和田アキ子の「古い日記」を歌い、バタリと倒れてしまいます。
ポチ男はなぜ、記憶を失ったのか？　なぜ、「古い日記」だけを覚えているのか？
ポチ男の歌の才能を見抜いたカスミは、自らがマネージャーを務めるバンド・赤犬のボーカルにポチ男を起用しつつ、ポチ男の過去を調べ始めます。

そのカスミは、高校を中退し、父親が経営していた古い音楽スタジオを切り盛りしています。
認知症らしいおじいと共に暮らすカスミは、その若さにも関わらず、スタジオ経営、赤犬のおっちゃんらのお世話、おじいのお世話、ポチ男のお世話をしているしっかり者。
でも実は、音楽を愛した父親を亡くして以来、そこから時が止まっているようなところがあり、そのぽっかりとした欠乏感を、毎日の忙しさで紛らわしているようなところがあるのです。

カスミは、ポチ男の記憶の欠乏を埋めることで、無意識に自分の欠乏感をも埋めようとしたのかもしれません。
しかし、ポチ男が記憶を無くすに至ったのにはそれなりの理由があり、その理由を掘り当てることは、ポチ男を辛い現実に引き戻すことに他ならないのでした。。。

赤犬と共に音楽活動をする内に、新しい自分となったポチ男ですが、過去の自分がしたことが、今の自分に復讐してきます。
そんなポチ男にとって、一番大切な夢は、過去も今も変わらず“音楽”でした。
“音楽”への夢を叶えてくれたカスミと赤犬は、彼にとって、もっとも大切な仲間となったのでしょう。
だからこそ、彼女の助けを得て、赤犬と味園ユニバースでライブをすることが、彼にとって最も叶えたかった夢だったのです。

全てを断ち切るように終わるラストシーン、きっと本当のポチ男は笑顔を浮かべていたんだろうなあと思います。
渋谷すばる、本当にいい表情を見せてくれました。

例え本当の結末がどうであっても、絶望ではなく、希望を感じさせる結末にしてくれた山下敦弘監督の演出、そして菅野友恵の脚本、素晴らしいと思いました。

『味園ユニバース』（103分／日本／2015年）
英題：La La La at Rock Bottom
公開：2015年2月14日
配給：ギャガ
劇場：TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国にて
監督：山下敦弘
脚本：菅野友恵
音楽：池永正二
出演：渋谷すばる／二階堂ふみ／鈴木紗理奈／川原克己（天竺鼠）／松岡依都美／宇野祥平／松澤匠／野口貴史／康すおん／赤犬／いまおかしんじ／オシリペンペンズ／ANATAKIKOU／中川晴樹／土佐和成／中村文徳／清家一斗／北村友希／澤田誠／二宮弘子／キヨサク／上江洌清作
Official Website：http://misono.gaga.ne.jp/