【映画レビュー】一命
それは、こんなに気合いの入った映画の撮影が終わったら、ちょっとハメを外したくもなるよね…。
と、ちょっと市川海老蔵の心境に思いを馳せてしまうこの映画『一命』。
この映画にはやっぱり海老蔵の才能が必要だったし、海老蔵がいなくてはなりたたない作品だと思うのです。
幼い頃から芸道という特殊な世界に生きてきて、一般人とは違う常識を持った人だからこそ、役柄にここまで入り込むことができるのだろうなあと思える作品です。
STORY
江戸時代初頭、合戦もなくなり世には泰平が訪れていた。ある日、井伊直孝の大名屋敷に津雲半次郎という初老の浪人が現れ、切腹のため玄関先を貸して欲しいと言う。食い詰めた浪人が大名屋敷で切腹を申し出、士官の口や金品をせしめる狂言切腹が流行していたのだ。応対に出た井伊家家老の斎藤勘解由は、かつて井伊家に狂言切腹に訪れ、実際に腹を切らされた津雲と同じ芸州出身の若い武士・千々岩求女の死に様を、津雲に話し始める…。
解説
滝口康彦の小説「異聞浪人記」を三池崇史監督が映画化した本作。
実はこの作品、1962年にも『切腹』(監督:小林正樹/主演:仲代達矢)というタイトルで映画化され、カンヌ映画祭で特別審査員賞を受賞しています。
本作『一命』も、2011年のカンヌ国際映画祭コンペティション部門で、初の3D作品として上映されました。
この作品で市川海老蔵が演じているのは、“武士道”とは何か、武士が“一命を賭して守るべきもの”とは何なのかを、形にこだわり安穏と生きる武士たちに突き付ける男・津雲半次郎を演じています。
芸州広島の福島家に士官していたものの、お家がとりつぶしとなり、士官の道を無くした津雲半次郎。
彼は、自分の幼い娘・美穂と、無念のまま死んだ上役・千々岩甚内(ちぢいわ・じんない)の一人息子・千々岩求女(ちぢいわ・もとめ)を必死で育てます。
彼は、生活に困窮し、傘張りの内職などをしながらも、武士の命である刀だけは後生大事に持ち続け、武術の技能も磨き、武士としての誇りを捨てずに生きてきました。
そして、求女と美穂が結婚し、孫の金吾も生まれ、半次郎は親としての責任を果たしたと思い一人でゆっくりと暮らそうと思っていました。
しかし、その頃、幼い頃から病弱だった美穂が病気になり、求女たちの生活はどんどん困窮していたのです。
そして、金吾が高熱を出すのですが、求女には、金吾の薬代の捻出もできませんでした…。
市川海老蔵が演じる津雲半次郎は、満島ひかり演じる美穂の父であり、瑛太演じる求女の義父である男。
1977年生まれ、まだ30代の海老蔵が初老の男を演じ、1982年生まれの瑛太の義父を演じるという点には、多少無理があるものの、そのムリは演技と三池崇史監督の演出でカバーしています。
自らが信じてきた“武士”という概念に裏切られた男が、“武士”とは何なのか、本当の“武士”の精神とは何なのか、本当の“武士”が取るべき行動とは何なのかを、鮮烈に問いかけるこの作品。
三池監督が『十三人の刺客』でも描いていた、思考停止に陥ることなく、人間個人として義を貫く男の生き様が、本作でも描かれているように思います。
様式や形式だけにこだわり、自分で判断することを捨てた人間は、“井伊の赤牛”であったとしても、猫以下の弱い存在でしかない…。
この作品には、そんな意図が秘められているように、私には思えました。
別コラム
作品情報
『一命』(127分/日本/2011年)
英題:HARA-KIRI: Death of a Samurai
公開:2011年10月15日
配給:松竹
劇場:全国にて
原作:滝口康彦
監督:三池崇史
音楽:坂本龍一
出演:市川海老蔵/瑛太/役所広司/満島ひかり/竹中直人/青木崇高/新井浩文/波岡一喜/笹野高史/中村梅雀
公式HP:http://www.ichimei.jp/
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