チャッピー / Chappie

チャッピー

ニール・ブロムカンプと言えば、『第9地区』でエビ人間に変身していく男の愛を描き、『エリジウム』でエクソスーツという体と結合するスーツを身に着け、サイボーグのような身体になった男を描いた南アフリカはヨハネスブルグ出身の映画監督。
この二作品には、一人の男性が自らの身体を異形に変形させつつも、一人の女性を想い続ける、という共通点がありました。

そのニール・ブロムカンプの最新作『チャッピー』は、全身が機械ででき、人工知能(AI)を搭載したロボット・チャッピーの“意識”が抱く愛の物語。

リアリティなんて、まったくないんです。
でも、そんなことなど関係ないくらいに、監督の強い想いやメッセージが、強く心に刺さってくるのです。

日本公開版の編集問題などで、ちょっと不名誉な方向で話題となったこの作品ですが、その騒動に反発して、観るのを止めるという選択をとるのはもったいない傑作だと思います。
ぜひ監督が何を訴えたかったか、それを広く公開するために配給会社はどういう努力をしたか、自分の目で確かめてみてください。

<STORY>
兵器企業テトラバールが開発した警察ロボット“スカウト”の開発者であるディオンはさらなる研究を進め、自分自身で“感じ”、“考え”、“成長する”AIを開発。ある時ディオンはストリートギャングに誘拐され、ギャングの指示でAIを搭載したロボットを起動させる。ギャングの女性、ヨーランディはロボットに“チャッピー”と名付け、愛情を与えるのだった。チャッピーは芸術的才能を開花させ、ヨーランディに愛情を抱く。しかし、テトラバールで“ムース”というロボットを開発しているヴィンセントがチャッピーの存在に気付き…。

<解説>

Chappie: The Art of the Movie

2016年の南アフリカ・ヨハネスブルグを舞台にしたこの作品。
荒れる民衆を鎮圧するために、テトラバール社が開発したロボット“スカウト”が警察に導入されている世界です。

この“スカウト”の開発者ディオンは、メガネで痩せ型のギーク系。
インド系英国人俳優デーヴ・パテルが演じています。

“スカウト”の開発の傍ら、家では人工知能の開発をしています。
そしてその人口知能を“スカウト”に搭載したいと会社の上司・ミシェルに訴えますが、自分で考えて行動する人口知能は必要ないと、あえなく却下されてしまいます。
そこで、彼は会社に内緒で廃棄予定のボディを使い、バッテリーが5日分しか残っていない“スカウト”のボディに人工知能をインストールしようとするのですが、ストリートギャングに誘拐され、人工知能をインストールした“スカウト”のチャッピーを、彼らのもとに置いていくことになります。

ストリートギャングの女性・ヨーランディは、赤ん坊のようなチャッピーをママとしてかわいがり、愛を教えます。
そしてチャッピーの創造者であるディオンは、チャッピーに法を犯してはならないこと、悪を為してはならないことを教えます。

しかし、チャッピーと一緒に暮らしているストリートギャングのニンジャとアメリカは、パパとしてチャッピーをかわいがりつつも、機械のボディを持つ彼を強奪などに利用しようと、彼に悪事を教えるのです。
目で見るもの、耳で聞くもの、すべてを吸収する、成長途中の子どものようなチャッピーは、大好きなパパとママ、創造者の言葉のダブルバインドで悩みつつも、自分にとって都合のいい回答を見つけ、理由をつけて悪事を働くようになります。

でも、そんなチャッピーを危険視したテトラバール社のエンジニアで、ディオンを敵視しているヴィンセント。
ヒュー・ジャックマン演じるヴィンセントは、自分の開発している人間がコントロールするタイプのマシーン“ムース”の評価が“スカウト”より低いことが我慢できません。
そこで、チャッピーを利用して、“スカウト”の評価を下げ、“ムース”をテトラバール社のメイン商品にさせようと、策略を巡らせます。
そして、「悪事を働く凶悪なスカウト」としてチャッピーを始末しに向かうのです。

このチャッピーの世界では、人間はそれぞれレベルの違いはあれ、善と悪を併せ持つ存在として描かれています。

創造者であるディオンは、基本的には善人だけれども、自身の達成欲のようなもののために、倫理観の確立しない中で“人工知能”を無責任に作ってしまったという“悪”を持っています。
一緒に生活している父であるニンジャは、チャッピーに悪い言葉や態度を教え(それが彼の生きる世界では当たり前のものだったのではありますが)、チャッピーを利用して現金強奪計画を立てるのです。
チャッピーを可愛がる母であるヨーランディは、チャッピーに情操教育を施し、溢れる愛を与えますが、基本的にストリートギャング。チャッピーと一緒に強奪計画に参加し、他者から力づくで何かを奪う存在です。

そして、“ムース”の開発者であるヴィンセント。
彼は、最初は自分の作った“ムース”の優位性を示したいがために、卑劣な行動に走るのですが、やがてその残忍性をむき出しにし、チャッピーや彼を守ろうとする人を襲い始めます。

チャッピーをとりまく人間たちは、生まれついてその“善”と“悪”を使い分けることができます。
ただ生まれたばかりの“人工知能”であるチャッピーには、その“善”と“悪”は複雑すぎ…。
チャッピーは“好き嫌い”といった“愛”の感情をもとに、行動をしていくようになるのです。

チャッピー、そして彼らを取り巻く人間たちの行動を見ていると、人間とはなんなのか? 善悪とはなんなのか? 意識とはなんなのか? 体とはなんなのか?
そんな考えが頭を巡ります。
それはまさに、ニール・ブロムカンプ監督が持ち続けているテーマなのかもしれません。

意識が人間と同じであれば、それは人間と言えるのか?
体が機械なら、それは人間ではないのか?
これはまた、これからの人類が共通して抱えていく、新たな問題なのかもしれません。

この人工知能を持つチャッピー、監督の盟友でヨハネスブルグ生まれの俳優、シャールト・コプリーがモーション・キャプチャーで演じています。
赤ん坊のように初めて出会った人間を怖がるチャッピー、ママに絵本を読んでもらって喜ぶチャッピー、パパに教えられてギャングスタの真似をするチャッピー、創造者への愛を示すチャッピー、そのどのシーンからも、チャッピーの感情が感じられる、エモーショナルな演技を見せています。

また、この映画を観てとても印象に残るのが、チャッピーと一緒に生活することになるストリートギャング、ニンジャとヨーランディの独特なルックスと、彼らが暮らす、廃墟の模様でしょう。
実は、ニンジャとヨーランディは、南アフリカのケープタウンで活動しているダイ・アントワードというラップグループのメンバーが、実名で登場しています。
パステルカラーに彩られたキュートな衣装や髪の毛に、体いっぱいのタトゥ、独特の風貌はあまり他には見ないもので、善と悪、相反する価値観をあわせ持つ“ヨーランディ”というキャラクターを彩るのにふさわしいルックスです。

また、彼らが暮らす廃工場のアジトは、ロケハンで見つけたヨハネスブルグにある実在の廃墟に、ダイ・アントワードのアートワークやミュージックビデオのスタイルを加えたものだそう。
廃墟の中にある、可愛らしい色合いのイラストも、とても心に残ります。

そう言った意味では、やはりこの映画『チャッピー』は、南アフリカが内包する様々な良きもの、悪しきものをもあぶり出す、とても現代的な映画に仕上がっていると思います。

『チャッピー』(120分/アメリカ/2015年)
原題:Chappie
公開:2015年05月23日
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
劇場:丸の内ピカデリーほか全国にて
原作・監督・脚本:ニール・ブロムカンプ
脚本:テリー・タッチェル
音楽:ハンス・ジマー
出演者:シャールト・コプリーヒュー・ジャックマンデーヴ・パテルシガニー・ウィーバー/ニンジャ/ヨーランディ・ヴィッサー/ホセ・パブロ・カンティージョ/ブランドン・オーレット/ジョニー・セレマ/アンダーソン・クーパー
Official Website:http://www.chappie-movie.jp/

チャッピー
チャッピー
posted with amazlet at 15.05.17
ハンス・ジマー
Rambling RECORDS (2015-05-20)
売り上げランキング: 92,956
Chappie: The Art of the Movie
Chappie: The Art of the Movie
posted with amazlet at 15.05.17
Peter Aperlo
Titan Books (2015-03-03)
売り上げランキング: 11,722
CHAPPiE 1/6スケール ABS&PVC&POM製 塗装済み可動フィギュア
threezero (2015-10-31)
売り上げランキング: 2,238
第9地区 [Blu-ray]
第9地区 [Blu-ray]
posted with amazlet at 15.05.17
ワーナー・ホーム・ビデオ (2011-04-21)
売り上げランキング: 3,991
エリジウム [Blu-ray]
エリジウム [Blu-ray]
posted with amazlet at 15.05.17
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント (2014-07-02)
売り上げランキング: 2,871
スポンサーリンク
レクタングル(大)
レクタングル(大)
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Evernoteに保存Evernoteに保存

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。