【映画レビュー】悪人

2010/7/21 日本映画あ行, 映画レビュー

妻夫木聡と深津絵里が大胆にイメージチェンジし、リアルな逃避行を演じた映画『悪人』。

劇中でふたりが見せるセックスシーンは本当に生々しく、「このふたりがこんなシーンを…」と、驚くはず。

妻夫木聡は自らこの役を演じたいと名乗りを上げただけあって、暗い目をして、他人の目を見られない殺人者の姿を見事に演じています。

暗さと弱さ、哀れさと恐ろしさを併せ持った主人公の清水祐一という役柄は、妻夫木聡だからこそ演じることができたのではないかと思います。

＜STORY＞

長崎で土木作業員として暮らす清水祐一は、出会い系サイトで知り合った石橋佳乃という女性と博多で待ち合わせをしていた。しかし、佳乃は待ち合わせ場所で会った他の男性に付いて行き、怒った祐一は佳乃を殺してしまう。その後長崎で普段通り暮らしていた祐一は、出会い系サイトで馬込光代という女性と会う。日常に閉塞感を感じていたふたりは惹かれあっていく。祐一は光代に佳乃を殺したことを告白し、ふたりは逃亡の旅に出る…。

＜解説＞
吉田修一の同名ベストセラー小説を『フラガール』の李相日監督の手で映画化した本作。
なんと、吉田修一は自らの手で李相日監督と共同で脚本を手掛けるほどの力の入れよう。
それだけに、原作の持つ“核”は、しっかりと映画にも継承されています。

満たされない孤独な人間が、孤独な人間を殺し、孤独な人間と共に逃亡する…。
この物語は、他者とのつながりを強く求めながらも、自らは他者を受け入れられない人間たちが巻き起こした物語なのです。

そして、その原作の持つ物語に新たな一面を付けくわえたのは、妻夫木聡と深津絵里というふたりの俳優の存在。

ふたりとも、どちらかというと“清純派”で“幸せ”なプラスのイメージの俳優だと思うのですが、この映画では、日常に満たされず、他者を拒絶しつつも他者とのつながりを求めてもがく役を演じています。
ふたりが必死に求めあうシーンはあまりに生々しく、それだけに普段のふたりの満たされない孤独な生活の様子が伝わってくるようです。
本作によって、妻夫木聡と深津絵里のふたりの俳優は、俳優としての新たな一面を切り拓いたのではないでしょうか。

そう言えば、この作品、原作は未読だと思って試写に行ったのですが、映画を観ているうちに「なんだかこのストーリー、全部知ってる…」と気付きました。
でも、本を読んだことはないはずなのに、なぜなんだろうと思ったら、朝日新聞の夕刊で連載されている時に、全部読んでいたのです。

そう言えば、アーティストの束芋の挿絵が独特で、小説の展開とそのシュールなイラストを楽しみに、毎日読んでいたのでした。
イカ料理屋さんのイカのシーンで、「こ、この絵は、まさしく束芋！」と、新聞連載を読んでいたことを思い出したのでした。。。

『悪人』（139分／日本／2010年）
公開：2010年9月11日
配給：東宝
劇場：全国にて
原作：吉田修一
監督：李相日
脚本：吉田修一／李相日
美術：種田陽平
音楽：久石譲
主題歌：福原美穂
出演：妻夫木聡／深津絵里／樹木希林／柄本明／岡田将生／満島ひかり
公式HP：http://www.akunin.jp/