【本】老人賭博 / 松尾スズキ

老人賭博

第142回芥川賞の候補作となった松尾スズキの小説「老人賭博」を読みました。

ある映画の撮影のために、北九州のさびれた町にやってきた映画製作部隊。
自分の人生がほぼ“詰んでいる”ことを知りつつ、それを受け入れてゆる~く生きる俳優やスタッフたち。
そんなダメなひとたちが、78歳にして初めて映画に主演することとなった老ベテラン俳優のNG回数を対象に、賭博に励む物語です。

さすが、舞台の人だけあって、ものすごくテンポがよく、あっという間に読み終えられました。

それにしても、俳優っていうのは、哀しくも面白い生きものなんですね…。

<STORY>
顔面が崩壊する奇病にかかった金子堅三は、手術をしたおかげでつぶらな瞳のスッキリ顔になっていた。手術代の借金を返すためにマッサージの仕事に明け暮れていた金子だが、借金を返し終わった時、金子はなりゆきで三流芸能人・海馬の弟子になることに。そして、海馬が出演する映画の北九州のロケに付き人としてついていく。78歳の老俳優の初主演作であるその映画だが、撮影がなかなか進まず、出演者たちは退屈して賭けを始める…。

<感想>
この作品に出てくるのは、みんなどこかいびつな人たち。

主人公の金子は、借金返済のために、マッサージのみに時間を費やしてきた、つぶらな瞳のマッチョ青年。
金子のセンセイである海馬五郎は、B級コメディやホラー映画の脚本家。1本だけ映画の監督もしていて、副業でコラムを書いたり、俳優もやっているという人物。まるで著者の松尾スズキそのままのようなキャラクターです。

海馬たちが撮影するのは、『黄昏の町でいつか』という映画。
78歳の“ジジイ界ではトップクラス”という名脇役の78歳の俳優・小関泰司の初主演映画です。

海馬は、なぜかそんな小関泰司の初主演作の脚本をゴーストで書くこととなり、ついでに俳優として出演することなるわけです。

その映画に出演している他の登場人物もみんなギリギリ。
映画出演とCM契約が決まってはいるけれど、芸能活動に限界を感じているグラビア・アイドルのいしかわ海、本職はゲイバーの店長でオカマキャラのタレント・波田、落ち目の二枚目俳優・三股、劇団出身で映画中心に活動する中堅俳優・阿木など、知名度も人気も微妙な人たちばかり。

そんな彼らが、超ベテラン老俳優のNG回数をめぐって、賭けを行なうわけです。

賭けをする理由を、海馬は金子にこう説明します。

「役者の仕事ってのは異常な行為なんだよ。俺は哀しいほど正常な人間だから、神を相手にゲームをしているような異常な身体を作っとかないと、人前で演じるという異常性に耐えられないんだな」

確かに、役者という自分の肉体を人前にさらすことによって成り立つ職業には、一般の職業人に推測しえないプレッシャーがあるのでしょう。
でも、だからこその快楽もあったりして、役者を長く続けていくことにより「役者の仕事は好きじゃなくても、役者しかできない」というような、相反する感情から、よりいびつになっていくのでしょうね。。。

賭けの対象となった78歳の俳優・小関泰司自身も、それだけ長い間俳優をやっているわけで、当然かなりいびつなわけです。
彼に30年来ついている付き人・山崎との関係も、かなりいびつでゆがんでいます。
本業は役者のはずなのに、映画には出たこともなくたまに2時間ドラマに出るだけ、という山崎も、小関に対しては複雑な感情を抱いています。小関のおかげで食べていけるけど、小関は自分がいないとセリフも覚えられない、というような劣等感と優越感の入り混じった気持ち。

こんないびつな人間たちの複雑な感情が入り混じったカオスな映画撮影での賭けの結末は…。

まあ、ある意味役者さんたちは、そういういびつさや“普通ではいられない”点が魅力なので、そういった場所で普通でいようとすることは難しいのでしょうね。。。

本作「老人賭博」は、「普通でいたいのに普通でいられない」、「でも普通じゃない自分にちょっと恥ずかしさを感じてしまう」というような、作者の悲哀が感じられるような一作でした。

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