【本】荒野 / 桜庭一樹

「私の男」で直木賞を受賞した桜庭一樹さんの小説「荒野」を読みました。

性愛小説家を父に持つ少女・荒野(こうや)の中学1年生から高校1年生までを描いています。
接触恐怖症で、なんにも知らない無垢な少女がだんだんと大人になっていく様子には、その時代だけのキラキラ感があふれていて…。
いやー、まぶしいわ。まぶしすぎる。。。

荒野
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桜庭 一樹
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<STORY>
中学1年生になった山野内荒野は、初登校の電車の中で神無月悠也という少年に助けられる。どきどきする胸の内を住み込みのお手伝いの奈々子さんに話すと、「それは吊り橋効果だ」という。荒野は悠也に恋をしたのだ。ある日、悠也と悠也のママの蓉子さんが荒野の家にやってきた。荒野の父であり、小説家の山野内正慶と蓉子さんが結婚するというのだ。そして、荒野が幼い時から世話をしてくれた奈々子さんは、ひとり家を出て行った…。

<感想>
父親は常に女性の気配を感じさせている人気恋愛小説家。
その父親の再婚で、同じクラスの男の子(しかも好きな人)と義理の兄妹になることに。

少女まんがによくあるようなこの設定。
あまりにも現実感がありません。
典型的な“少女のファンタジー”的設定だなあと思っていたら、この小説、実はもともとはファミ通文庫で発表された、いわゆるライトノベル、略してラノベなのですね。

でも、この作品、ラノベだからとバカにはできません。
さすが直木賞作家だけあって、筆力がすごい。

実は、荒野にも、荒野の周辺のキャラたちにも、現実感はまったくありません。
特に荒野が恋する悠也など、あまり登場すらしないし、“女性作家が頭の中で考えた理想の初恋相手”的なキャラであることは否めません。今どきの中学生男子は五木寛之なんか読まないし、ジャズなんか聞かないと思う。。。
荒野のパパも、絵にかいたような“性愛小説家”でしかない。とはいえ、渡辺淳一にも吉行淳之介にも檀一雄にも及ばない。。。

でも、キャラ設定は類型的ですが、中学生の女の子である荒野の“感情の発露”“現実に対する戸惑い”などに、ものすごく力があるのです。

既視感というか、立体感というか…、大人になった自分が、幼い時に感じていただろうはずの感情が、とても生き生きと描かれているのです。
だから、キャラクター設定自体には現実感はないけれど、荒野という少女の存在感はしっかりと感じることができます。

自分にまったく知らされないままに大人の都合だけで大事なことを決められてしまう戸惑いや、初めて男女のあのことを知ってしまった時の恥ずかしさなど、かつて子どもだった人なら一度は味わったことがある、でも今となっては忘れていた感情が、ページをめくるごとにどんどん甦ってくるのです。

ラノベ的なご都合主義や、ティーン向けのサービス的な要素、陳腐なセリフなども多分にありますが、そこを含めても、この小説はなかなか買いだと思います。
特に女性の方は、自分の中学生、高校生のころを思い出すことが出来るはずです。

しかし、この桜庭一樹さん、あの「私の男」を書いた後の作品がこれって、振り幅広いなー。
でも、男性を描くのは、ちょっとニガテなのかもしれませんね。。。

荒野
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