【本】天地明察 / 冲方丁

天地明察

第31回吉川英治文学新人賞、第7回本屋大賞を受賞した作家・冲方丁(うぶかた とう)の小説「天地明察」を読みました。

本作は、日本独自の太陰暦を作り上げた渋川春海の物語です。
もともと算術好きだった彼が、保科正之の命を受け、様々な困難を乗り越えて改暦というビッグ・プロジェクトに挑む物語。

江戸幕府、京都朝廷、目的を達成するためにあちこちで調整を重ね、自らの知識や技術の研鑽を重ねて行く春海の姿は、今のビジネスマンにも響くものがあるはず。
なかなか読み応えのある、ボリューミーな一冊です。

<STORY>
徳川四代将軍・家綱の時代。碁打ち衆として徳川幕府に使える安井算哲は、碁に倦み、算術に熱中していた。彼は老中・酒井忠清から帯刀を命じられ、二刀を差すこととなり、“囲碁侍”と揶揄されたりも。彼は父の代から続く安井算哲という名にも飽き、渋川春海という名も用い、碁打ちでありながら算術にも熱中し、どっち付かずな日々を送っている。そんな中、春海に会津藩藩主・保科正之から、日本独自の大和暦を作り、改暦せよ、との命が下される…。

<感想>
この物語の主人公の渋川春海(安井算哲)は、碁打ちの名門の家に生まれた、言わばおぼっちゃま。
父の名跡を継いで碁打ちの職に付き、その職業柄、江戸幕府や京都朝廷、様々な人脈にコネクションを持つ男です。

彼は、もともとの育ちの良さやのんきな性格もあり、平和な時代の中で、碁だけにも熱中できず、市井の算術に熱中していました。
数術とともに、天文、暦学にも理解の深かった彼は、老中・酒井忠清や会津藩藩主・保科正之、徳川幕府副将軍・水戸光圀から庇護され、その当時使っていた宣明暦の間違いを証明し、新しい日本独自の大和暦を作り、改暦を果たせとの命を受けます。

碁の世界を変革した本因坊道策、自身で行列などの概念を作り上げ、和算という日本独自の算術を作り上げた関孝和といった、様々なタレントから刺激を受け、助けを得ながら、その命を果たすために邁進する春海。

彼の敵は、これまで使ってきた宣明暦が間違っていることを知りつつも、新しいことが理解できないためと、これまで培われてきた既得権益や権威を守るため、“変化を拒む人びと”です。

彼はそういった人びとへの密かなネゴシエーションや根回しを重ね、様々な困難や、自らが作り上げた新暦の間違いの発見などの大きな挫折を乗り越えて、ひたむきに努力を重ねていきます。
そんな春海の姿には、困難なプロジェクトに挑む、現在のビジネスマンの姿が重なります。

ただ、彼の成し遂げたこと自体は、一企業の商業的なプロジェクトとは次元の違う、日本全土、そして日本の未来にまで影響を及ぼす、国家的なプロジェクトです。
ここまで大きなプロジェクトに取り組むとなると、もはや損得など関係なく、滅私の精神で執念を持って取り組まないと達成できないのでしょうね。

本書を読んで印象に残ったのは、春海の暮らす江戸時代、四代将軍・家綱の治世に生まれ、戦国の世を知らず、戦前・戦中も知らなかった春海が、明暦の大火とその後の復興で受けたという衝撃が、今の私たちの境遇にぴったりと重なっているということです。
いくつか抜粋してみます。

春海がそのとき打たれたのは、生まれて初めて、大きな“変化”と呼ぶべきものが、明確な形を伴って世に出現したのをはっきり見たことによる、昂揚の念であった。

むろん都市火災は極大の災禍である。無惨に焼かれた人びとの市街を運ぶため、そこら中で長い行列ができたという。あまりの死者の多さに、将軍家綱は今後火災の際に、民衆が正しく退避できるよう、江戸の正確な地図の製作と普及を命じたという。それほどの屍の山だった。そんな事態を、間違っても嬉しく思うわけがない。
だがそれでも春海が、ひしひしと“新しい何か”の到来を予感したのも事実である。

この感覚は、東日本大震災後の我々の感覚に、非常に近いのではないでしょうか。
そう言った意味で、本書の中で春海が成し遂げたような、“これからの世界を変える”ビッグ・プロジェクトが、現在の日本でも登場しないかと、なんとなく期待してしまいますね。

さて、この「天地明察」、現在映画化が進んでいるそうです。

渋川春海には岡田准一が扮し、『おくりびと』滝田洋二郎監督がメガホンをとるとのこと。

そんな作品に仕上がるのか、公開が楽しみですね。

書籍「天地明察」
公式HP:http://www.kadokawa.co.jp/sp/200911-06/

映画:『天地明察』
公開:2012年秋
劇場:丸の内ピカデリーほか全国にて
監督:滝田洋二郎
出演:岡田准一宮崎あおい横山裕中井貴一松本幸四郎市川染五郎
公式HP:http://www.tenchi-meisatsu.jp/

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