悪党に粛清を／ The Salvation

2015/6/6 外国映画あ行, 映画レビュー

マッツ・ミケルセンとエヴァ・グリーンが共演で、しかも題材が西部劇！
しかも復讐をテーマとしたウェスタン・ノワール！
なのに製作国はデンマーク。そしてロケ地は南アフリカ！

さらに、『悪党に粛清を』なんて素晴らしいタイトルと来たら、これはもう観にいくしかないような気にさせてくれた映画『悪党に粛清を』。

いやもう、期待通りに素晴らしかった。。。

＜STORY＞
1861年、兄と共にデンマークからアメリカに入植したジョンは、7年後、妻のマリーと息子をアメリカに呼び寄せる。しかし、入植地に向かう駅馬車の中で、美しいマリーがならず者に目をつけられ、犯されて息子と共に殺されてしまう。怒りに震えるジョンはならず者を撃ち殺した。しかし、そのならず者はジョンの暮らす町の用心棒であるデラルー大佐の弟で、デラルー大佐はジョンに復讐しようとする。そして、そんなデラルー大佐のそばには、ジョンが殺したならず者の妻・マデリンがいた…。

＜解説＞
ラース・フォン・トリアー、トマス・ヴィンターベア、ソーレン・クラーク＝ヤコブセンらと共に、ドグマ95を提唱したデンマークの映画監督クリスチャン・レヴリング。
そんな彼が、“デンマークの至宝”マッツ・ミケルセンを主演に迎え、南アフリカで製作した西部劇、それが本作『悪党に粛清を』です。

本作の舞台は、1868年のアメリカ西部。
原住民との戦いの記憶も生々しく、まだ法だけでは人命を守ることができなかった頃の入植地が舞台です。

マッツ・ミケルセン演じる主人公のジョンは、7年ぶりに再会した妻子を、ならず者に殺されてしまいます。
ジョンは、そのならず者に復讐するわけですが、そのならず者の兄というのが、入植地の用心棒として好き勝手やっているデラルー大佐。

町長すらも逆らえない、圧倒的な暴力性で町を支配するデラルーにジョンは狙われることとなります。
町の人は皆ジョンを裏切り、唯一の味方である兄・ピーターをも殺されたジョンは、何もかもなくし、本当の復讐の鬼になるのです。

彼は、たった一人でデラルー大佐の一味に挑みます。
そして出会うのが、エヴァ・グリーン演じる、もの言わぬマデリン。

マデリンはかつて原住民に両親を殺され、自身も舌を切られたという凄惨な過去を持つ女性。
舌を切られたため、何もしゃべることができません。
彼女は弟の妻の“プリンセス”として、デラルー大佐に一見大事にされているのですが…。

このマデリンは、その大きな瞳ですべてを見ています。何も言わずに。
エヴァ・グリーンの大きな瞳は、彼女の感情を雄弁に物語っていますが、もの言わぬがゆえに、彼女の真意はなかなか伝わりません。

彼女は夫を愛していたのか？
デラルー大佐をどう思っていたのか？
夫を殺したジョンを、憎んでいるのか？

その全てが明らかになるラストシーンは、見事というしかないでしょう。
これが、人間の感情というものなのです。。。

この映画『悪党に粛清を』は、平和にも安全にもコストが高くかかり、そのコストを払えるもののみが人間として扱われていた古い時代に、人間の尊厳を忘れずに持ち続けた者たちの戦いを描いています。
ヨーロッパ各地から入植してきた者たちが、アメリカという国をつくっていく時代を描くこの西部劇、“デンマーク製西部劇”というのは、ある意味、自分たちの先祖の戦いを描いたということで、正統派西部劇とも言えるのかもしれません。

無口なマッツ・ミケルセンの抑制のきいた演技は、まさに北欧映画のそれ。
感情を派手に爆発させるのではなく、静かに、でもその心情を雄弁に物語る彼の演技に、大きく心を揺さぶられました。

『悪党に粛清を』（93分／デンマーク＝イギリス＝南アフリカ／2014年）
原題：The Salvation
公開：2015年6月27日
配給：クロックワークス、東北新社
劇場：新宿武蔵野館ほか全国にて
監督・脚本：クリスチャン・レヴリング
脚本：アナス・トーマス・イエンセン
音楽：キャスパー・ワインディング
出演：マッツ・ミケルセン／エヴァ・グリーン／ジェフリー・ディーン・モーガン／ミカエル・バーシュブラント／ナナ・オーランド・ファブリシャス／ダクラス・ヘンシュオール／ジョナサン・プライス／エリック・カントナ／ロバート・ホッブス
Official Website：http://akutou-shukusei.com/