【映画レビュー】プレシャス / Precious: based on the novel “Push”by Sapphire

プレシャス

「愛」と言う言葉の意味を「たたかれたり、レイプされたりすること」だと思っている16歳の少女・プレシャスの生活を描いた映画『プレシャス』

実の娘を、性の道具や家政婦としか思っていないような両親に育てられ、文字も満足に読めず、友人もいない少女・プレシャス。
胸が苦しくなるような、辛くてやりきれないようなストーリーです。

でも、自らの力で羽ばたこうとするプレシャス、そしてプレシャスを支えようとする教師や友人たちの姿をみていると、どこか心の内が暖かくなっているような気がします。

<STORY>
16歳のクレアリース・プレシャス・ジョーンズは、二度目の妊娠中。二度とも、実の父親にレイプされた結果の妊娠だ。12歳で産んだ長男はダウン症で、プレシャスの祖母に育てられている。現在、父親は失踪中で、彼女は母親とふたり暮らしだ。妊娠が学校にばれ退学になったプレシャスは、代替学校に通い始めた。そこでプレシャスは教師のミズ・レインと出会う。レインは文字が読めないプレシャスに文字を教え、日記の交換を始める。

<解説>
プレシャスはニューヨークのハーレムに暮らす16歳の女の子です。

実の父親には小さい頃から性的虐待を受け、母親からは罵られ、人間扱いもしてもらえない毎日。
親から料理をしてもらったこともなく、栄養に関する知識もないので、自分で作ったハイカロリーな料理をたくさん食べては、どんどん太って行く。
文字の読み書きもできず、学校に行ってもしゃべることもない。
病院に行ったこともなく、実の父親にレイプされて生んだひとり目の赤ちゃんは自宅で出産。
その赤ちゃんはダウン症で、祖母に預けられており、一緒に暮らすこともできない。
そして、また、ふたり目の子供を妊娠…。

そんな辛い毎日を送るプレシャス。
辛い目にあっている間、彼女はきれいになり、スターになった自分を想像します。
男性にチヤホヤされ、スポットライトを浴びる自分を想像しては、辛い時間をやり過ごすのです。

そんな彼女が、学校を退学になり、フリースクール(代替学校)に行き始めてから、変わって来ます。
信頼できる教師に出会い、年齢の近い友人もでき、やっと他者からひとりの“人間”として扱われ始めます。

そして、文字を学び、自分の意思を表現する方法を知り、現状を変えるための行動を始めるのです。

彼女に教育を与える教師、彼女の問題を解決しようとするケース・ワーカー(マライア・キャリー)、彼女を支える男性看護師(レニー・クラヴィッツ)、彼らの関わりにより、プレシャスはやっと人間らしい生活を送ることができるようになるのです。

彼らと出会わなければ、プレシャスの人生はどうなっていたかわかりません。
虐待の辛さを逃れようと妄想を募らせた結果、解離性同一性障害などが起こる可能性もあります。
キレて母親を殺害してしまったりする可能でいだってあるかもしれないのです。

そんなことが起こらなかったのは、本当に幸運だったのだと思います。

この物語の原作者・サファイアは、ニューヨーク在住の詩人で、自身もハーレムの子どもから大人までに、読み書きを教えているそうです。
監督・製作を務めたリー・ダニエルズは、自分も虐待を受けていた経験があるそう。プレシャスの空想シーンにリアリティがあるのは、監督の実体験でもあるからなのです。

過酷な試練が連続する物語ですが、最後にどこか明るい気持ちになれるのは、監督がプレシャスに希望を託しているからでしょう。
「どんなに辛い子ども時代を過ごした人間でも、自分次第で、幸せな生活を手に入れることはできるのだ」と。

Cheeseにとって、“健康で文化的な最低限の生活”はそこにあって当たり前のものでした。
でも、そんな“最低限の生活”すらも送れない少女の物語は、本当に衝撃的でした。

この映画『プレシャス』、第82回アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演女優賞(ガボレイ・シディベ)、助演女優賞(モニーク)、脚色賞、編集賞などの6部門にノミネートされています。

ガボレイ・シディベはこれまでの演技経験はゼロ。映画初出演で演技経験がなく、黒人の彼女が主演女優賞にノミネートされているということで、大きな話題となっています。

また、プレシャスの母親役で圧巻の演技を見せるモニークも、助演女優賞にノミネートされています。
彼女はもともとはコメディエンヌとしてテレビで活躍してきた女性です。
教育もなく、自分の快楽や利益しか考えていない母親を、すごい迫力で演じています。
本当にすごい熱演なので、これは…行くかもしれません。

 
<関連作レビュー>
【本】プレシャス / サファイアhttp://c-movie.jp/book/push_a-novel/
 

『プレシャス』(104分/アメリカ/2009年)
原題:Precious: based on the novel “Push”by Sapphire
公開:2010年4月24日
配給:ファントム・フィルム
劇場:シネマライズ、シャンテシネほか全国にて
監督・製作:リー・ダニエルズ
原作:サファイア
出演:ガボレイ・シディベモニーク/ポーラ・パットン/マライア・キャリー/シェリー・シェパード/レニー・クラヴィッツ
公式HP:http://www.precious-movie.net/

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