【映画レビュー】ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ ／ The Electrical Life of Louis Wain

19世紀末から20世紀にかけて活躍したイギリスの画家・イラストレーターであるルイス・ウェイン。
さまざまなネコをモチーフとした絵で人気を博した彼の人生を描いた映画『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』。

この映画では、妻を愛し、ネコを愛し、苦しみながらも絵を描き続けたルイス・ウェインと、彼を取り巻く家族の愛憎が描かれています。

擬人化された表情豊かでユーモラスな猫や、サイケデリックな万華鏡猫など、彼の独特な作品がどのようにして生まれたのか……。
妻の死後、悩みも深く、心の病を抱える彼の姿に、アーティストの孤独と苦しみ、そして恍惚を見ることができます。
ネコ成分は思ったよりも薄めですが、ネコ好きな人であれば楽しめる作品ではないでしょうか。

ロンドンの上流階級に生まれたルイス・ウェインは、得意な絵を生かして新聞の挿絵画家となる。やがて、妹の家庭教師としてやってきたエミリーと恋に落ち、身分違いと反対されながらもエミリーと結婚。二人は猫のピーターとともに幸せな結婚生活を送っていたが、エミリーはガンで死去してしまう。悲嘆にくれながらも、ピーターをモチーフにさまざまな猫の絵を描いたルイスは、人気画家となる。しかし、ルイスは心の病を発症してしまい……。

ベネディクト・カンバーバッチが演じた主人公のルイス・ウェインは、絵と数学などが得意な、ちょっと風変わりな男性。母親と6人の妹の面倒を見るために、イラストを描いて生計を立てています。
上流階級の出身ではあるのですが、父親もおらず、稼ぎ手である男性がルイスしかいないため、経済的には決して豊かではありませんでした。

そんな彼が恋に落ちたのは、妹の家庭教師であるエミリー。クレア・フォイ演じるエミリーは、いわば職業婦人。当時の基準で考えると、ルイスとエミリーの恋はスキャンダルでした。

世間や家族の反対を押し切ってルイスとエミリーが結婚しますが、エミリーの乳がんが発覚。エミリーを励ますため、彼は二人の愛猫であるピーターをモチーフに、絵を描き始めます。そしてそのネコの絵が人気になるのですが、二人の幸せな生活は3年で終わってしまいます……。

エミリーのために描いた猫の絵で、世間的に人気を得たルイス。
しかし、そこにエミリーはいません。
いるのは、猫と、家族と、電気のような刺激の多い世間のみ……。
空気中の電気までも感じて刺激を受けてしまうような繊細な感性のルイスは、やがて心を病みながら、世間や家族に誤解されながら、それでもただ筆を取り、猫の絵を描き続けていくのです。

その理由は、エミリーへの愛と、そして猫への愛でした。

イギリスと日本の血を引く新鋭監督ウィル・シャープは、そんなルイスの繊細さと猥雑な世間を、スタンダードの画角の中にぎゅっと詰め込んでいます。
自然の色彩あふれ、人々がひしめき合うその世界は、雑然としているようで、それでいて計算されたにぎやかさに満ち、見事に調和しています。
テンポのよい演出も、まるで舞台のようだったりおとぎ話のようだったりと、さまざまな魅力を感じ流ことができるはずです。