【映画レビュー】白ゆき姫殺人事件
何か事件が起こった時、昨今ではすぐにネット上でいかにもらしい“真相”が語られたりもします。
それは犯人の本名であったり、顔写真であったり、事件の経緯であったり。
“事情通”の人たちが“真相らしきもの”を書き込み、それを見た名無しさんがよってたかって祭りにしてしまうわけです。
でも、その“真相”って本当に真相?
誰が見た真相?
誰がどの角度から見た真相?
当事者ではない“関係者”が、事後に「そう言えばあんなこともあったわー」という形で思い出した真相ではありません?
その時は「お弁当を作ってくれるなんて親切な人だなー」と思っていたのに、その人が容疑者として報道された途端「勝手に弁当を作って留守中に置いていくストーカーみたいな人」なんて風に、記憶を書き換えたりしてません?
世論にミスリードされてません?
映画『白ゆき姫殺人事件』は、そんな人間の証言の曖昧さや記憶の曖昧さ、そして“名無しさん”が作り上げる世論の怖さなどを描いた映画です。
自分の都合のいいように記憶を作り替えていくように、人間の本質は『羅生門』の頃から変わらないのに、メディアや技術だけはどんどん進化していって、事態を複雑にしていくわけですね。。。
<STORY>
Twitter依存気味の若手テレビマン・赤星雄治のところに、女友だちの狩野里沙子から連絡が入る。彼女が勤務する化粧品会社の美人社員・三木典子が殺され、彼女と同期入社の城野美姫が犯人ではないかと言うのだ。功名心に狩られた赤星は、三木典子や城野美姫の関係者から証言を集めては、ワイドショーで発表する。しかし、赤星がTwitterでつぶやいていた内容から城野美姫の本名はすぐにさらされ、ネットは“白ゆき姫殺人事件”として祭り状態に…。
<解説>
湊かなえの原作と言うと、女のエゲツなさをとことん描いた、こわーい作品というイメージがあります。
そして、中村義洋監督の映画と言うと、無関係と見られた様々な出来事が最後にすべて収束し、ひとつの希望に向かっていく、そんなイメージ。
そんな湊かなえと中村義洋監督のコラボレート作品って、いったいどんな風になるのだろうと、興味深く観に行ったこの映画『白ゆき姫殺人事件』。
果たして、この『白ゆき姫殺人事件』、まさしく中村義洋監督作品でした。
女の怖さ、男の弱さ、人間の汚さなどがじっくり描かれているけれど、最後に残るのは“優しさ”。
林民夫の脚本は、二人のクリエーターの性質をうまくとらえ、見事に形にしています。
この作品では、作り上げられた世論により殺人犯と目される地味な女性・城野美姫を井上真央が、スタイルも抜群で美人と名高い“白ゆき姫”・三木典子を菜々緒が演じています。
この作品では、“事実”以外に、それぞれの登場人物が想像する事件の真相が、映像として再現されます。
これと言った特徴の無い地味な女の笑顔は、それを見る人によって可愛らしくも気持ち悪くも映ります。
そして、誰もがうらやむ美人の言動は、それを見る人によってつつましくも高慢にも映るのです。
起こった事実はひとつでも、真実は人の数だけある…。
井上真央は、同じ役柄を様々なパターンで演じ分け、その演技力を見事に表現しています。
中村義洋監督は、それぞれの人間にとっての事実を、少しずつ違った形で見せており、まさに“記憶の曖昧さ”というものを映像として表現していると思います。
現代のネット住人の悪い部分のみを寄せ集めたようなキャラクター・赤星雄治を演じる綾野剛の演技もなかなか。
名無しのうちは強気でエラそうなのに、本名・職業を特定され顔写真をさらされた途端、弱く大人しくなっていく…。
いわゆるバカ発見器で発見される低リテラシーの若者を、軽薄に演じて見せているのです。
あ、そう言えば赤星雄治に最初に情報を提供する城野美姫の後輩・狩野里沙子を演じている蓮佛美沙子、顔をちょっと汚し、髪型もマッシュルームにして、いつもの彼女からは想像できないルックスを作り上げていましたね。
このキャスティング、なかなか絶妙ですね。。。
『白ゆき姫殺人事件』(112分/日本/2014年)
公開:2014年3月29日
配給:松竹
劇場:全国にて
原作:湊かなえ
監督:中村義洋
脚本:林民夫
出演:井上真央/綾野剛/菜々緒/金子ノブアキ/小野恵令奈/谷村美月/染谷将太/蓮佛美沙子/秋野暢子/ダンカン/宮地真緒/大東駿介/貫地谷しほり/山下容莉枝/川面千晶/野村佑香/草野イニ/朝倉あき/生瀬勝久
公式HP:http://www.shirayuki-movie.jp/
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