【映画レビュー】竜とそばかすの姫
細田守監督の現時点での集大成とも言える映画『竜とそばかすの姫』。
インターネット上の仮想世界(『サマーウォーズ』)、日常のすぐそばにある異世界(『バケモノの子』)、獣人(『おおかみこどもの雨と雪雨』)、巨大クジラ(『バケモノの子』)といった、これまでの細田作品に登場したさまざまなモチーフが登場し、物語を形作っています。
それをさらに発展させているのは、ディズニーアニメ『美女と野獣』の世界観。
『ベイマックス』、『アナと雪の女王2』などでキャラクターデザインを担当するジン・キムがベルのデザインを手がけ、これまでの細田キャラクターとは一味も二味も違うボーダーレスな仮想世界を表現しています。
細田守監督の頭の中にあるもの、細田監督の好きなものがギューっと詰まった、まさに集大成と言える一作なのです。
STORY
女子高生の鈴は、歌が好きだった母を事故で亡くして以来、歌えなくなっていた。友人のヒロちゃんに誘われて、すずはインターネット上の仮想世界「U(ユー)」に参加する。Uでは本当の自分とは違うAs(アズ)というアバターで、違う人生を生きることができる。AsのベルとしてUに参加した鈴は、Uでは自由に歌うことができた。その歌声でベルはすぐにUの人気者になる。ある日、U中の嫌われ者・竜と出会ったベルは、彼に心をとらわれていく……。
解説
実世界で母を亡くし、歌声を失った鈴を主人公とする本作。
鈴は自分を心配する父を拒み、母の友人たちにも心なしか距離を置いています。
そんな鈴が友人のヒロちゃんのすすめで始めたのが、世界中の50億人が参加しているインターネット上の仮想世界「U(ユー)」。
ベルというAs(アバター)となりました。ベルの姿になった鈴は、自由に心のままに歌うことができました。
そして、友人のヒロちゃんのサポートもあり、歌姫・ベルとして人気を博していきます。
そして、U(ユー)の世界で嫌われている乱暴で傲慢な“竜”というAsの抱えた傷が気になるようになるのです。
彼はなぜあんなに傷を抱えているのか。
なぜあんなに孤独なのか。
彼は誰なのか。
そして彼女は、竜のオリジン(竜の現実世界の姿)を探し始めます。
そのために彼女は自分を犠牲にし、U(ユー)の50億人の前に、本当の自分の姿を晒すのです。
それは、他人から言ってみれば、自己犠牲とも言えます。
でも鈴にとってはそれは、「やりたいこと」「やらなければならないこと」でした。
竜のために自己を犠牲にした彼女は、かつて幼い子どもを助けるために川に飛び込んで亡くなった母のことを理解できるようになるのでした。
そして、自分は一人ではないことに気づきます。
ヒロちゃんをはじめとする友人や、父親、そして亡き母の友人たちまでも、ずっと自分を見守っていてくれたことに。
仮想世界には50億人のファンもパワーを与えてくれるけれど、現実世界の10人はもっともっと力をくれている……。
自分が人を助けることで、自分も人から助けられていることに気づいたのです。
世界は遥か遠くにもあるし、目の前にもある。
世界とつながることもできるし、目の前の縁をつなぐこともできる。。。
細田守監督は東京まで何時間もかかる高知の片田舎と、世界とつながる広大なインターネットの世界を対比させながら、今も昔も変わらない人間のつながりと、人間同士がつながることで人も世界も成長していく様を描いています。
世界と広がることで遠くの誰かを助けることもできるけれど、地元の小学校から世界に影響を与えることも、世界を変えることもできるのです。
自分が投じた一石が、世界を少しずつ変えていく。
ベルが竜を救い、鈴が竜のオリジンを救う。
そして竜のオリジンも、鈴の助けをきっかけに、自分の周囲の世界を変えられるようになる。。。
これは「君と僕の二人だけでは世界は成り立たない」という、細田監督のメッセージのように思います。
自分だけでなく、世界と、50億人とつながることで、すべてを変えていくことができる。。。
それはこの作品の成り立ちとも似ています。
日本のアニメーターだけではなく、ディズニーのキャラクターデザイナーであるジン・キム、そして架空の都市設計やイラストレーションを発表してきたロンドン在住のプロダクションデザイナーであるエリック・ウォンを迎えることで、細田監督は自身の作品にこれまでにない広がりを与えました。
世界観や映像だけではなく、それは音楽の面でも同様です。
音楽監督の岩崎太整を筆頭に、スウェーデン出身の作曲家Ludvig Forssell、坂東祐大が音楽を手がけ、常田大希が率いるmillennium paradeが主題歌を手がけるなど、様々な音楽家がコラボレーションを見せ世界を広げてくれました。
さらに、声優としてシンガーソングライターの中村佳穂のほか、YOASOBIの幾田りら、森山良子、坂本冬美、岩崎良美、ermhoiら、多くのミュージシャンが参加している点でも、何も限定せずに、ジャンルを超えて世界を発展させていく意欲が感じられました。
細田守の集大成でもあり、新たなる幕開けをも感じさせる映画『竜とそばかすの姫』、今年ぜひ観るべき一作と言えるでしょう。
作品情報
『竜とそばかすの姫』(121分/日本/2021年)
公開:2021年7月16日
配給:東宝
劇場:全国にて
原作・監督・脚本:細田守
CGキャラクターデザイン:ジン・キム
プロダクションデザイン:上條安里/エリック・ウォン
音楽:岩崎太整/Ludvig Forssell/坂東祐大
主題歌:millennium parade × Belle(中村佳穂) 「U」
衣装:伊賀大介
声の出演:中村佳穂 /成田凌/染谷将太/玉城ティナ/幾田りら/森山良子/清水ミチコ/坂本冬美/岩崎良美/中尾幸世/森川智之/宮野真守/島本須美/石黒賢/役所広司/佐藤健/津田健次郎/小山茉美/ermhoi
Official Website:https://ryu-to-sobakasu-no-hime.jp/
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