【映画レビュー】プッチーニの愛人 / PUCCINI E LA FANCIULLA
自らが設立した映画学校(イントレランス)で教鞭をとっているパオロ・ベンヴェヌーティが監督したこの映画。
さすが、映画学校の教師だけあって、この映画『プッチーニの愛人』は、実験に満ちた、一風変わった作品です。
でも、それだけではありません。
この作品は、音楽家ジャコモ・プッチーニの愛人と疑われたメイドが自殺してしまったスキャンダル「ドーリア・マンフレーディ事件」の真相を暴いたもの。
映画製作の課題として、パオロ・ベンヴェヌーティと映画学校の生徒たちが「ドーリア・マンフレーディ事件」について調べているうちに、彼ら誰がプッチーニの本当の愛人だったのかを突き止めたのです。
そして、歴史の中に埋もれていた事件の真実をを映画化し、発表したのでした。
そういった意味でも、とても意味のある作品だと思います。
<STORY>
1909年、作曲家のジャコモ・プッチーニはトスカーナ地方トッレ・デル・ラーゴにある別荘で、オペラ「西部の娘」の作曲に取り掛かっていた。別荘にはドーリア・マンフレーディというまだ若いメイドがおり、プッチーニの妻・エルヴィーラは、プッチーニが彼女と浮気をしているのではないかと疑っていた。エルヴィーラは人前でドーリアを激しく非難し、家に幽閉する。そんな状況に耐えられなくなったドーリアは、やがて服毒自殺してしまう。
<解説>
この作品には、ほとんど“言葉”がありません。
女性が歌うオペラやピアノ演奏、教会の祈祷などの音声は聞こえてきますが、登場人物たちがかわす会話は、観客の耳には届かないのです。
この映画に描かれている事件が起こった時、プッチーニはオペラ「西部の娘」の作曲中でした。
イタリアの湖水地帯トッレ・デル・ラーゴの美しい自然の中、美しい音楽を作り出していたのです。
しかし、彼のやっていることは、醜悪とも言えます。
ある女性と逢瀬を重ねながら、嫉妬深い妻の疑いを避けるため、純粋なメイドのドーリアがさも自分の愛人であるかのように、妻に信じ込ませたのです。
さらには、ドーリアの純潔を信じ、プッチーニを疑う彼女の従兄弟を、就職を世話するという名目で、都会に追いやってしまいます。
プッチーニの妻・エルヴィーラは、プッチーニたちの思惑どおり、ドーリアがプッチーニの愛人なのではないかと疑い、彼女を責め立てるのです。
そしてドーリアは、「誰が本当のプッチーニの愛人なのか」を知りつつも、抗議の意味を込めて、黙ったまま、自殺してしまいます。
美しい音楽を奏で、優雅な生活を送りながらも、使用人に対して人とも思わぬ態度を取るプッチーニ。
真実を知りながらも、その真実を飲み込んで、黙って自殺するしかなかった使用人のドーリア。
この作品の中で“言葉”がないというのは、プッチーニたち貴族階級にとって、ドーリアたち使用人の言葉など全く届かないことを意味しているのかもしれません。
彼らにとってドーリアたちの言葉など、はなから聞く価値もなく、聞く必要もない言葉なのです。
さて、肝心の“プッチーニの本当の愛人”は誰なのか…。
それは、スクリーンをしっかり見つめて、確かめて観てください。
はっきりと明示されているわけではないので、お見逃しなきよう。。。
『プッチーニの愛人』(84分/イタリア/2008年)
原題:PUCCINI E LA FANCIULLA
公開:2011年6月18日
配給:エスピーオー
劇場:シネマート新宿ほか全国にて順次公開
監督:パオロ・ベンヴェヌーティ
出演:リッカルド・ジョシュア・モレッティ/タニア・スクイッラーリオ/ジョヴァンナ・ダッディ/デボラ・マッティエロ/フェデリカ・ケッツィ
公式HP:http://www.puccininoaijin.com/
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