【映画レビュー】わたしの名前は… / Je m’appelle Hmmm…
デザイナーのアニエスベーが、少女を主人公として撮影した映画『わたしの名前は…』。
フランス人の12歳の少女と、スコットランド人のいかつい中年男のロードムービーと聞くと、なんだかスイートで可愛らしいお話かと思いきや、かなりビターなこの作品。
大人に傷つけられた少女とすべてをなくして孤独な男、身勝手な大人としたたかな子ども、それぞれの思いが交錯する、ちょっと切ない一作です。
<STORY>
失業して家にいる父親から性的虐待を受けている12歳のセリーヌは、誰にも言えずに煩悶を抱えていた。ある日、学校の行事で出かけた海辺で、セリーヌは停まっていた大型トラックに潜り込んでしまう。運転中にセリーヌの存在に気づいたトラック運転手のピーターは、傷ついたセリーヌを優しく受け入れる。スコットランド人のピーターは家族を亡くした孤独な男だった。英語とフランス語でなんとか意思疎通をしながら、二人はあてのない旅に出る。
<解説>
ハーモニー・コリンの映画のプロデュースやデヴィッド・リンチ作品で衣装をデザインするなどで、映画界でもいくつかの業績を残しているデザイナーのアニエスベーが、本名のアニエス・トゥルブレ名義で監督した映画『わたしの名前は…』。
ある新聞記事を読んで触発された彼女は、この作品の脚本を2日間で一気に書き上げたそうです。
フランス人の12歳の少女、スコットランド人の中年男、フランス語と英語でお互いの意思疎通も完璧にできない二人が、旅の途中で放浪の哲学者や不思議なダンサー、奇妙な男などと、いくつかの出会いを経験し、そして別れていきます。
もともと言葉も通じあわない二人にとって、言葉や名前など無意味なのかもしれません。
セリーヌの本当の気持ちはセリーヌにすらわからず、彼らがなぜそんな行動を選んだのかは、本人たちにすら、わからないのかもしれません。
言葉の力と同時に、言葉の無意味さをも感じさせる物語になっています。
どんな言葉を尽くすよりも、少女と男が交わした笑顔の方が、雄弁に真実を物語っているのです。
アニエス・トゥルブレ監督は、デザイナーならではのこだわりで世界を美しく切り取り、彼らの生に彩りを与えています。
特に、突如挟まれるモノクロの映像や、粒子の粗い風景映像など、なんてことはない日常の世界がまったく違って見えるような、不思議な味わいを感じさせてくれます。
また、この作品には実験映画の大御所監督ジョナス・メカスもゲストカメラマンとして参加しています。
彼が撮影したシーンは、哲学者アントニオ・ネグリの語る言葉や、無言でたたずむダンサー、亜弥と雫境の存在感も雰囲気を添え、まるでこの世ではないかのような世界を描き出しています。
中年男・ピーターを演じるダグラス・ゴードンも、もともとコンテンポラリー・アーティストとして知られる人物。
アニエス・トゥルブレの人脈が結実し、この映画でしか見られない、アーティストたちによる不思議な世界ができあがっているのです。
それぞれの世界で活躍するアーティストや学者たちが監督のために集まって、ひとつの世界を作り上げた本作。
鑑賞後に不思議な余韻を残す、新人監督の意欲作と言えるでしょう。
『わたしの名前は…』(126分/フランス/2013年)
原題:Je m’appelle Hmmm…
英題:My Name is Hmmm…
公開:2015年10月31日
配給:アップリンク
劇場:渋谷アップリンク、角川シネマ有楽町ほか全国にて順次公開
監督・脚本・撮影・美術:アニエス・トゥルブレ aka アニエスベー
ゲストカメラマン:ジョナス・メカス
音楽:デヴィッド・ダニエル/ソニック・ユース
オリジナル音楽:ジャン=ブノワ・ダンケル/ジュリアン・ランゲンドルフ
出演:ルー=レリア・デュメールリアック/ダグラス・ゴードン/シルヴィー・テステュー/ジャック・ボナフェ/ノエミー・デュクロー/エミール・ゴーティエ/マリー=クリスティーヌ・バロー/アントニオ・ネグリ/亜弥/雫境
Official Website:http://www.uplink.co.jp/mynameis/
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