【映画レビュー】モールス ／ Let Me In

スウェーデンのヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストの原作小説「MORSE―モールス」をハリウッドで製作したこの映画『モールス』。

同じ原作で2010年にスウェーデンで映画され、日本でも2010年に『ぼくのエリ 200歳の少女』という邦題で公開されています。

私は、スウェーデン版の映画も観て、原作小説も読んだのですが…、この映画『モールス』を観て「さすが、ハリウッド映画！」といろいろと納得。
良くも悪くも、というか、うまい具合にいろいろわかりやすく、上手にまとめています。

スウェーデン版映画ではモヤッとしたまま残し、原作では身も蓋もなく開示しちゃった部分を、きれいな方向に感じさせるようにリードしたり。。。

最大公約数の人々に、きれいに響くように美しくまとめたこの作品、映像も詩のように美しく、心に残る一作です。
まあ、［アメリカ＝“善”、“悪”＝外から来るもの］という冒頭のアピールには、多少同意できない点もありますが。。。

映画『キック・アス』で殺人少女・ヒットガールを演じたクロエ・グレース・モレッツがヴァンパイアの少女・アビーを演じていることでも話題のこの作品。
彼女に恋をする少年・オーウェンを演じるのは、『ザ・ロード』でヴィゴ・モーテンセンの息子を演じたコディ・スミット＝マクフィー。もの言いたげな大きな瞳が印象的な少年です。

クロエ・グレース・モレッツとコディ・スミット＝マクフィーという若き実力派俳優を主演に据えてこの作品を作り上げたのは、『クローバーフィールド／HAKISHA』のマット・リーヴス監督。
『クローバーフィールド／HAKISHA』では正体も全体像もわからない怪物を描いた彼ですが、本作では割とそうそうにヴァンパイアの正体を見ることができます。

少女・アビーがヴァンパイアになる様子は、なんともグロテスク。
普段の可憐な少女の姿と、グロテスクなヴァンパイアの姿のコントラストが際立っています。

だからこそ、可憐な少女・アビーに惹かれるオーウェンの気持ちと、グロテスクなヴァンパイアの姿を見て恐怖に震えるオーウェンの気持ち、両方を観客が強く共有できるのです。

このハリウッド版の映画、ストーリーの流れは、ほぼスウェーデン版と一緒です。
ただ、アル中のおじさんたちが登場しなくなっていたり、“あのシーン1”が削除されていたりするので、かなりストーリーが理解しやすくなっています。
アル中の人びとが年金や生活保護などで暮らしながら、だらだら昼間から飲んでいる…というような描写は、映画を観ているだけではなかなか理解できなかったりもするので、この変更は正解だと思います。
“あのシーン1”もね…。
日本版の映画を観ただけでは理解できないし、その事実を知ったとしても、多少理解しづらいし。

ただ、猫好き的には、“あのシーン2”が削除されたのは、ちょっと残念でしたね。。。
“あのシーン2”は、映像的にもヴァンパイアの哀しさや切なさを描写するにも、有効だったように思うのですが。

この『モールス』、抑えた色調で、ファンタジーのような、切なくも美しい作品となっています。
“善”なるアメリカに暮らす善なる少年が、自分と異なる生物と出会い、新しい道を選ぶ、この物語。
彼の未来が、“善なる未来”になるのか、“善悪を超えた未来”になるのか、想像は膨らむばかりです。