【映画レビュー】ぼくのエリ 200歳の少女 / Låt den rätte komma in

ぼくのエリ 200歳の少女 [DVD]

いわゆるボーイ・ミーツ・ガールな少年の成長物語かと思っていたら、大きく裏切られる北欧ヴァンパイア・ムービー『ぼくのエリ 200歳の少女』

いじめられっこの孤独な少年とエキゾチックでミステリアスなヴァンパイア少女の切なくも美しい恋…というような表現は、この作品とってはあまりにも陳腐。
なんというか、想像を超えた作品でした。

ラブストーリーでもあり、ジュブナイルでもあり、女の怖さを描く作品でもあり、ホラーでもあり、スプラッタでもあり。

ラスト・シーンなんて、よくできた幻想伝奇小説のよう。
私は、京極夏彦「魍魎の匣」の中に出て来る劇中小説「匣の中の娘」を思い出しました。

うん、当人同士が当分の間幸せでいられるのなら、それでいいのよね…。
でもきっと、数十年後に惨劇は繰り返されるのでしょう。。。

いや、「ミレニアム」シリーズといい、スウェーデン映画ってスゴい…。

<STORY>

Let the Right One In

学校でいじめられている、母親と二人暮らしの孤独な少年・オスカー。ある日彼は、隣室に引っ越してきたという不思議な少女・エリと出会う。その頃、オスカーの住む街で猟奇殺人事件が発生。犯人は被害者を木からさかさまにぶらさげ、殺した後に血を抜こうとしていたのだ。やがて犯人は捕まるが、硫酸で顔を潰してしまい、犯人の身元はわからないままだった。オスカーはエリと仲良くなり恋に落ちるが、やがて彼女の秘密を知る…。

<解説>
学校ではいじめられ、一緒に暮らす母親には淋しい心を理解してもらえず、別居している父親には、たまに会った息子との水入らずの会話より、仲良しのおじさんを優先されてしまう少年、オスカー。
誰にも言えないけれど、殺人事件に関する新聞の切り抜きを集めたり、いじめっ子をナイフで刺す練習をしている、そんなうっ屈した少年です。

そんな彼が、マンションの中庭で、一人の少女・エリと出会います。
雪の積もった中を薄着で歩き回り、ルービックキューブの6面を簡単に合わせてしまう、不思議な少女、エリ。
やがて彼女と仲良くなったオスカーは、隣の部屋に住んでいるエリと、壁越しにモールス信号でやりとりをするようになるのです。

エリは、父親か祖父くらいの年代の中年男性と暮らしています。
彼がエリの安全を守り、エリの食料である血液を調達してくる係です。

その調達方法は、なんとも荒っぽいやり方。
その辺を歩いている人に薬をかがせて、頭を下にして林の中の木にぶら下げて、首のあたりを切って、落ちて来る血液をプラスチックのボトルに詰めるのです。
そんなやり方で、誰かに見つからないのかと思っていたら、案の定、散歩中の犬に匂いを嗅ぎつけられ、飼い主に近づいて来られて、血液捕獲作戦は失敗に終わります。

その次には、部活帰りの高校生を狙おうとして、また失敗。
逮捕寸前に顔に硫酸をかけ、身元が割れるのは防いだものの、病院送りとなってしまいます。
そして、お腹をすかせたエリに自分の血液を与え、ひっそりと死んでいくのです…。

最初は、なんでそんなにずさんな犯行をするのかと不思議に思いました。
完全犯罪を期すなら、それこそ同じくスウェーデンを舞台にした作品『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』の犯人のように、殺人部屋でも作ってしまった方が、危険は少ないはず。
それなのに、なぜ、あんないつ誰に見られるかもわからない場所で犯行を繰り返すのか…。

彼はむしろ、もう捕まりたかったのかもしれないなと思ってしまいました。
そりゃあね、愛するエリのためとはいえ、なんの罪もない人々を殺し、血液を抜き取り続ける生活は、やっぱり楽しいものではないでしょう。

もう疲れちゃったんだろうな…。
新しいエリの庇護者も見つかったことだし、捕まえて欲しくてあんなずさんな犯行に及んだんではないだろうかと思ったら、もう、切なくて。

オスカーの未来が、こんな切ない結末を迎えないことを祈るのみです。

最後に、ちょっと蛇足ですが。
エリは何度もオスカーに「私が女の子じゃなくても好き?」と聞きます。
オスカーは「なんでもいいよ。関係ないよ」と答えます。

このシーン、「私が吸血鬼でも好き?」と言う意味で聞いているのかと思ったら、どうやらそうではないようです。
その本意は、物語の最後くらいでエリが裸になるシーンで明らかになるのですが…、なんと、日本で公開されているバージョンではボカしが入っていて、本当の意味がわからない!!

このブログを書こうとネットを見ていて、その本当の意味を知ったのですが、なんだかとても残念でした。

物語の重要な要素であり、ここがわからなければ物語の理解が変わって来ると言う重大なポイントにぼかしを入れると言うのは、映画の観客や製作者たちへの大きな裏切りではないでしょうか。
芸術作品に対して、杓子定規な対応をするお役所仕事は、本当にやめていただきたいです。

 
【関連作レビュー】
■映画『モールス』http://c-movie.jp/review/let-me-in/
◆【本】MORSE―モールス / ヨン・アイヴィデ リンドクヴィストhttp://c-movie.jp/book/morse/

 
『ぼくのエリ 200歳の少女』(115分/スウェーデン/2008年)
原題:Låt den rätte komma in
英題:Let the Light One in
公開:2010年7月10日
配給:ショウゲート
劇場:銀座テアトルシネマほか全国にて順次公開
原作・脚本:ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト
監督:トーマス・アルフレッドソン
出演:カーレ・ヘーデブラント/リーナ・レアンデション/ペール・ラグナル/ヘンリック・ダール/カーリン・ベリィクイスト
公式HP:http://www.bokueli.com/

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