【映画レビュー】GAGARINE/ガガーリン / Gagarine

1961年に人類初の有人宇宙飛行を成功させたソ連の宇宙飛行士、ユーリ・ガガーリン
この映画『GAGARINE/ガガーリン』は、そんなガガーリンから名前をもらったガガーリン団地に暮らす、ユーリという名の少年を描いた映画です。

この映画のもう一人の主人公は、ユーリが暮らすガガーリン団地でもあります。
長年にわたり、移民などを中心に多くの住人が暮らしてきたガガーリン団地は、多くの人を生み育て、多くの人の記憶に残っています。その生活の遺産を壊すということはどういうことなのか、気づかせてくれる一作です。

STORY

パリ南東のイヴリー・シュル・セーヌに1963年に建てられた国営住宅のガガーリン団地。ここで生まれ育ったアフリカ系フランス人のユーリは、団地が取り壊されるという噂を聞き、友人のフサームと設備の点検を行っていた。ある日ユーリはロマの女の子・ディアナと出会い、仲良くなっていく。やがて団地の取り壊しが決定。フサームも家族と出て行くが、ユーリは行く場所がない。彼は一人で団地に残り、団地を宇宙船のように改造していく……。

解説

ガガーリン団地に住むユーリという名前の少年が主人公となる本作。
彼は宇宙飛行士を目指しており、彼が飼っている犬の名も「ライカ」だったりします。

そんな彼は、母親にネグレクトされて一人で暮らしている孤独な少年でもあります。
恋人の元で暮らしている母親は、ユーリが電話をしても出ようとしません。彼の存在は無視されています。
一時はユーリを引き取りそぶりを見せていましたが、ギリギリになって「あなたとは暮らせない。子どももできるし」と電話で断ってきます。姿すら見せずに。

母親から拒まれたユーリは、唯一のホームである生まれ育ったガガーリン団地で、たった一人で暮らし始めます。団地を宇宙船に見たて、まるで宇宙にいるかのように、自給自足の生活を送ろうとするのです。

たった一人での団地での暮らしは、ある意味、宇宙での暮らしとも似ています。
たまに乱入者もいたりもするけれど、基本的には孤独で一人。
彼はよるべもない身。足に地をつけた生活なんて、生まれ育ったガガーリン団地でしか送ったことはないのです。
その団地が壊されることになった今、彼をこの世界に縛り付けるものなんてありません。
無重力状態のようにふわふわと、宇宙空間のような団地の中を漂うのです。。。

そんなユーリを、友人のフサームや、ガールフレンドとなったディアナは団地の外から心配しています。
彼らがユーリを助けようとした時、ユーリを守り育ててきたガガーリン団地が、奇跡を起こすのです。

長い間、ユーリを守り育んできた団地は、まるで母親のように発光し、メッセージを送ります。そんな団地の中をふわふわと漂うユーリは、まるで母親の胎内を漂う赤ちゃんのようでもありました。

人が長い間暮らしてきた場所や土地には、歴史とともに意味が付与されていきます。
行政にとって、ガガーリン団地は低所得者層が暮らす老朽化した集合住宅でしかないのでしょう。だからこそ、
パリ五輪に向けてその団地を取り壊し、再開発することを決定しました。
でも、ユーリのようなそこで育ってきた一人ひとりにとっては、ホームであり、唯一の故郷なのです。

ファニー・リアタール&ジェレミー・トルイユ監督は、実際のガガーリン団地を舞台に、素晴らしい物語を作り上げました。
少年の成長と巣立ちの物語でもあるこの作品。少年の過酷なサバイバルを優しく包み込む、土地や建物への尊敬と愛が感じられる一作なのです。

作品情報

『GAGARINE/ガガーリン』(98分/フランス/2020年)
原題:Gagarine
公開:2022年2月25日
配給:ツイン
劇場:新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国にて
監督・脚本:ファニー・リアタール/ジェレミー・トルイユ
音楽:エフゲニー・ガルペリンサーシャ・ガルペリン/アミン・ブアファリ
出演:アルセニ・バティリ/リナ・クードリ/ジャミル・マクレイヴン/ファリダ・ラウアジ/フィネガン・オールドフィールド/ドニ・ラヴァン
Official Website:http://gagarine-japan.com

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