【映画レビュー】ホロコーストの罪人 / Den storste forbrytelsen

第二次世界大戦時、ナチス・ドイツがユダヤ人迫害をおこなったホロコースト
ホロコーストを描く映画は、多く存在しています。その多くはドイツで製作されたものですが、この映画『ホロコーストの罪人』はノルウェーが製作したもの。

1942年当時に、ノルウェーに実際に暮らしていたユダヤ系ノルウェー人であるブラウデ家の家族たちの運命を描く物語です。
タイトルにある、ホロコーストの罪人とは、いったい誰なのか? 
それはけっしてアドルフ・ヒトラー一人ではなく、ナチス・ドイツ隊員だけではなく、ドイツ人だけでもない。。。
その当時にノルウェーで生き、ユダヤ人が迫害されているのをただ見守った全員に、この問いが突きつけられています。
そしてそれは、ノルウェーだけではなく、「声を上げずにいる」世界中の我々にも、向けられた問いなのです。

STORY

第二次世界大戦中、かつてリトアニアから亡命してきたユダヤ人のブラウデ家はノルウェーで幸せに暮らしていた。ノルウェー代表のボクサーでもあるチャールズは、アーリア人のガールフレンド・ラグンヒルと恋に落ちて結婚。両親と兄弟のイサク、ハリーからも祝福を受けた。1940年4月、ナチス・ドイツがオスロへ侵攻し支配を強めていく。1942年10月、ブラウデ家の男性陣はベルグ収容所に集められ、厳しい監視下で強制労働させられる……。

解説

ナチス・ドイツ侵攻時、ノルウェー秘密国家警察はナチス・ドイツの指示のままに、1942年10月にユダヤ人の男性らをベルグ収容所に集め、また1942年11月には女性や子どもも含むノルウェー在住のユダヤ人をオスロ港から移送船に乗せ、アウシュビッツ収容所に送りこみました。

本作では、ナチス・ドイツのノルウェー侵攻から、オスロ港からの強制移送に至るまでの、ブラウデ家の家族たちの姿を描いています。

ノルウェーを代表するボクサーだったチャールズ・ブラウデは、両親と二人の兄弟と幸せに暮らしていました。
そして、ユダヤ人ではないアーリア人の女性・ラグンヒルと結婚。
当時、ナチスの蛮行はノルウェーにも伝わってきていましたが、ブラウデ一家は「ノルウェーでは大丈夫だろう」とどこか楽観的に構えていました。
警察から届いた調査票にも「自分たちがユダヤ人である」ことをきちんと答え、ユダヤ(JEWS)というスタンプを押された証明書を持つことになります。
ノルウェーという国を信じていたのです。

しかし、1942年10月、ユダヤ人男性陣はベルグ収容所に集められ、その1カ月後の1942年11月には女性や子どもたちをも含むユダヤ人773名がアウシュビッツなどの絶滅収容所に送られます。

収容所に送られてからの描写は、とてもショッキング。
決して残虐な映像があるわけではないのですが、それゆえに、心に重くのしかかってきます。
何も聞こえない、無音の先に、彼らが連れて行かれた新たな世界が広がっている……。

収容所に送られた773人は、ノルウェーで暮らしていたユダヤ人全員というわけではないようです。
ブラウデ家の姉・ヘレーンのように早い段階で亡命した人も多かったようですし、アーリア人と結婚した人は連行されなかったり、ノルウェー秘密警察の警察官たちの匙加減で逃げおおせた人もいるように、映画の中では描かれています。
実際、約630人のユダヤ人はスウェーデンに脱出し、約100人は国内に潜伏して生き延びたのだそう。

彼ら、ノルウェーに暮らしていたユダヤ人の物語は、近年になってやっとノルウェーでも公に語られるようになりました。
2012年1月、当時のすとるテンベルグ首相は「70年前のユダヤ系ノルウェー人の国外強制移送は『恥の航海』であった」と政府として公式の謝罪をしました。

ナチスの命令で、実際にユダヤ人の逮捕・強制移送に関与し、主体的に動いていたのはノルウェー人なのです。

本作の原題は“Den storste forbrytelsen”。“最大の犯罪”という意味です。
英題である“Betrayed”は「裏切る、騙す」「(人・国を)売る、秘密を漏らす」という意味の“Betray”の受動態。“(ノルウェーからドイツに)売られた人たち”という意味でしょう。
つまり、ナチス・ドイツに773人のユダヤ人を引き渡したことが、ノルウェーの最大の犯罪なのです。

本作は、この“最大の犯罪”を犯した過去の歴史を告発し、後世に残そうとしたもの。

声をあげずにいた罪を告発する本作は、ノルウェー人だけを告発するものではありません。
声をあげなかったのは、我々も同じなのです。

作品情報

『ホロコーストの罪人』(126分/ノルウェー/2020年)
原題:Den storste forbrytelsen
英題:Betrayed
公開:2021年8月27日
配給:東北新社、STAR CHANNEL MOVIES
劇場:新宿武蔵野館ほか全国にて順次公開
原作:マルテ・ミシュレ
監督:エイリーク・スヴェンソン
脚本:ハラール・ローセンローヴ=エーグ/ラーシュ・ギュドゥメスタッド
音楽:ヨハン・セデルクヴィスト
出演:ヤーコブ・オフテブロ/クリスティン・クヤトゥ・ソープ/シルエ・ストルスティン/ピーヤ・ハルヴォルセン/ミカリス・コウトソグイアナキス/ニコライ・クレーベ・ブロック/カール・マルティン・エッゲスボ/エイリフ・ハートウィグ/アンデルシュ・ダニエルセン・リー/アンドレ・セルム/アクセル・ボーユム/マッズ・オウスダル
Official Website:https://holocaust-zainin.com/

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