【本】人質カノン / 宮部みゆき
現代社会に生きるまったく関係のない他人同士が、ふとしたきっかけで関わり合い、7つの物語が展開していきます。
深夜のコンビニやタクシーなど、物語はあちこちに転がっているのです。
<STORY>
ある夜、いつものコンビニに立ち寄った逸子。店内には店員と、中年男、眼鏡の中学生というふたりの客がいた。そこに、フルフェイスのヘルメットをかぶった強盗が現れた。動けないでいる逸子たちの前で、強盗は赤ちゃん用玩具のガラガラを落としてみせた。その後、強盗はコンビニから逃げ出したが、逸子の頭からはそのガラガラのことが頭から離れない。ある日偶然、町で再会した逸子と眼鏡の中学生は、強盗の正体を推理するが…。(表題作:「人質カノン」。その他6編を収録)
<感想>
単行本の初版が1996年に出版されている、この「人質カノン」。
14年も前の作品になるわけですが、まったく古臭さを感じません。
宮部みゆきの作品をそんなに読んでいるわけではない私ですが、ついつい引き込まれてしまいました。
何がすごいって、細かく設定された登場人物たちのリアリティがすごいです。
宮部みゆき作品の全般に言えることだと思うのですが、例えば“犯人がたまたま逃げ込んだ簡易旅館の経営者家族”という、思いっきり脇役のキャラクターにも、細かい設定がなされ、生活感やリアリティを感じさせています。
そうやって、リアリティのある登場人物が繰り広げるドラマだからこそ、物語にも現実味があり、重みがあり、普遍的な面白さを感じさせるのだと思います。
「人質カノン」の登場人物たちが繰り広げる物語は、みな、何の関わりもない赤の他人同士が、偶然のきっかけで出会い、ある時間やあるものを共有するすることから始まっていくものです。
人と人との出会いは偶然であっても、当人たちの意識の持ち方次第で、その出会いを物語に変え、お互いの人生に影響を与えあうことができる…。
目を見開いて周りをよく見ていれば、面白い事件は周りにいっぱい起きているのです。
自分の人生がつまらないのは、自分が周囲を否定しているから…。
作者は、そんなメッセージを伝えているような気がしました。
「私の周りには面白いことがない」なんて嘆いている人に、読んでもらいたいと思った短編集でした。
大極宮 -大沢オフィス公式ホームページ-
公式HP:http://www.osawa-office.co.jp/
文藝春秋 (2001-09-04T00:00:01Z)
¥715