【本】シャネル / 藤本ひとみ

シャネル

『ココ・アヴァン・シャネル』『ココ・シャネル』『シャネル&ストラヴィンスキー』と、シャネル関連の映画を観ているうちに、シャネル女史のことがちょっと気になってきた私。
そんな時、藤本ひとみの小説「シャネル」を見つけて、早速読んでみました。

藤本ひとみの歴史小説の主人公像といえば、大きな歴史のうねりの中で、自分のおかれた環境と闘いながら、強い意志を持ち、自分の運命を切り拓いていく人物が多い気がします。
この小説「シャネル」の中のガブリエル・シャネルは、まさにそんな人物。

家族の縁が薄く、男に利用されつつもそれ以上に男をうまく利用し、時代の波に乗って自分の夢を実現していくシャネルの光と影を、鮮やかな筆致で描き出しています。

<STORY>
11歳で母親に死なれ、父親に姉・ジュリアと共に孤児院に置き去りにされたガブリエル・シャネル。孤児院で裁縫の腕を身につけたガブリエルは、ムーランの洋品店でお針子として働きながら、歌手を目指して酒場で歌を披露していた。そこでフランス軍の若き歩兵・エティエンヌと出会い、やがて彼の館で愛人として暮らすようになる。しかし、その生活に飽き飽きしたガブリエルは、エティエンヌと別れ、アーサー・カぺル、通称ボーイの融資を受け、「シャネル・モード」という帽子屋を始める。ボーイはガブリエルのビジネス・パートナーだけではなく、恋人でもあり、彼女を成功に導く指導者でもあった。しかし、彼は名家の娘と結婚すると言い出した…。

<感想>
映画『ココ・アヴァン・シャネル』『ココ・シャネル』『シャネル&ストラヴィンスキー』の、シャネル映画三作の方を先に観ていた私。
どうしても、本書を読みながらも「あ、これ映画で観たな」とか、「あれ、これって映画では姉だったはずなのに、本だと伯母になってる」と、映画と比べてしまいました。

その印象で言うと、本書はかなり映画『ココ・アヴァン・シャネル』に近い感じです。
ただ、映画ではボーイが死んだ後のことはサラっとしか描かれていないけれど、本書ではボーイの死後のシャネルの男性関係などもきちんと書かれています。
(ストラヴィンスキーとの恋愛は出て来ません)

ただ、ボーイの死後のシャネルのボーイフレンドたちに関しては、どうしても印象が薄い…。
職業や身分・地位に関しては詳細に書かれているのですが、どうも彼らの顔が浮かんでこないのです。
でも、それはシャネルの人生に与えた影響度が低いということで、しょうがないのかもしれませんね。

それにしても、シャネルと言う人はまったくすごい人です。
常に新しいスタイルを提供して新しいモードを創り出し、戦争といった過酷な時代にも負けず、時流に乗って顧客を増やし、ビジネスを成功させていくのですから。
彼女には常に自分を引きたててくれる男性があり、恋人や愛人の地位や財産をもうまく利用して、シャネル帝国を作り上げます。

しかし、彼女はビジネス上の成功とは裏腹に、愛情には恵まれません。
家族との縁も薄く、愛する男は他の女性と結婚してしまった上に事故死してしまうし、結婚してもいいと思った男性からは求婚されず…。
男性たちは、彼女の人生のステップアップやビジネスに大きな影響を与えますが、彼女に“家庭”という、一般的な幸せを与えてはくれませんでした。

自己の求める道を強烈に突き進むが故に、男性の求める女性像を演じることができず、しかし愛を求めて孤独に苦しむシャネルの姿がそこにはありました。

「静かな癒しより過酷な復讐を取る。私ってそういう女だわ」

プライドの高さと、絶対に自分を曲げない強さ、強い美意識と独自のスタイルを持って生き続けた女性、ガブリエル・シャネル。
その強さゆえに成功し、強さゆえに葛藤を続けなければいけなかった彼女の人生は、知れば知るほど面白いです。
シャネルに関する他の伝記や小説も、読んでみたくなりました。

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