【本】チョコレート・アンダーグラウンド / アレックス・シアラー
みんな大好きチョコレート。
血糖値を上げてくれる、健康な生活を送るために欠かせないこの食品が、“健康に良くない”という理由で禁止されてしまったら…?
イギリスの作家、アレックス・シアラーが書いた児童書「チョコレート・アンダーグラウンド」は、チョコレートをイメージした可愛い装丁から想像する以上に、実はとっても大人向け。
主人公たちの挑戦や心意気に共感し、ワクワクしながらページを読み進めることができるエンターテインメント作品なのですが、かなり奥が深いのです。
現代の日本人にとっては、本書の内容は他人事ではありません。
選挙も近いし、いろいろと考えさせてくれました。
<STORY>
ある国で、健全健康党という政党が選挙で勝利し、政権を奪取した。その党は甘いものなどを、人体に有害として禁止する「チョコレート禁止法」を制定。チョコレートを食べたり、隠し持ったりしていた人間は逮捕され、強制施設へ送られるのだ! チョコレートが大好きな二人の少年、ハントリーとスマッジャーは、食料品店の女主人・バビおばさんと一緒に、チョコレートの密造・密売(ブートレグ)を始め、「地下チョコバー」を始める…。
<感想>
大好きなチョコレートを理不尽に禁止された少年たちが、“政府に抵抗するために”(←ここ重要)、チョコレートの密造・密売を始め、権力と戦う物語。
「チョコレート禁止法」は、以下のような文章で国民たちに告知されます。
本日五時以降チョコレートを禁止する
今後、チョコレートは何人にも売買してはならない。
ただし、適正な医師の証明書がある場合はこのかぎりではない。
それ以外の場合、菓子やチョコレートの販売は、これを禁止とする。
違反した者は、五千ポンドの罰金または懲役刑に処す。
これは行政命令である。
健全健康党 発行
国民に選ばれた代表
(われわれは、よりよい健康及びよりよい歯のため、悪しき食生活による肥満や疾病の排除のために力を尽くします)
恐ろしいのは、“国民に選ばれた代表”である党が、こんな暴挙に出たということ。
この法律の制定を疑問に思った主人公のハントリーは、母親にこう尋ねます。
「どうして、大半の人に支持されていないのに、選挙に勝って国を動かすことができるの?」
母親の答えは、こう。
「アパシーね、ハントリー」
「無気力とか怠慢という意味よ」
「つまり、多くの人が、投票所に行って投票する手間をかけなかったの。だれもが『ほかのみんなも、あの党に反対にちがいないから、自分がわざわざ行くことないさ』って思ったのね。ただ、ほかのみんなも同じことを考えてた。わかる?」
民主主義の世界では、選挙に勝った党が政権を動かして行くことを、母親はハントリーに教えます。
例え大半の人に支持されていないにしても…。
ここから、物語はハントリーとスマッジャーのチョコレート・ブートレグへの冒険へと進んで行くのですが、この冒頭部分だけですっかり本書にノックアウトされてしまいました。
世論に付和雷同しがちな日本国民に、「こんなことが起こる可能性もあるんだから、ちゃんと自分で考えて選挙に行こうね」と訴えかけているような本書。
文章もわかりやすく、それでいて、ちょっとイギリス映画の匂いも感じさせるような粋な会話もあったりし、どんどん読めます。
法政大学教授の金原瑞人氏が翻訳されているのですが、この方は芥川賞作家の金原ひとみさんのお父上なんですね。
なるほど、「蛇にピアス」はこういう環境から生まれるのか…。
求龍堂
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