【本】黒澤明という時代 / 小林信彦
小林信彦が映画監督・黒澤明について語る本「黒澤明という時代」を読みました。
本書は1943年(昭和18年)に公開された黒澤明の監督デビュー作『姿三四郎』を、国民学校の4年から5年に進む春休みに映画館で観て以来、リアルタイムで黒澤映画を観続けて来た小林信彦が、黒澤明の隆盛から没落、そして晩年までを語った本です。
小林氏は、本書を書くために4つのルールを作ったそうです。以下、そのルールを引用します。
1 作品を観る以外、自分が体験したこと、直接見たり、耳にしたこと以外は、いっさい書かない。いろいろ耳にしたことがあるにせよ、噂のたぐいはいっさい排除する。
2 黒澤氏については多くの本が出ていて、その大半には目を通したつもりだが、主として、堀川弘通氏の「評伝 黒澤明」を杖にするつもりで、ご病気療養中の堀川氏に挨拶をした。
3 それは本当だろうと思われる巷説も、証拠を見ていない限り、避けることにした。いわゆる<取材>はしていないことになる。不明な部分は不明なままにしたので、戦時中から、時とともに私の中に入ってきたもののみが残った。
4 技術のことは、じっさいにわからないのだが、テクニカル・タームも使わないことにした。書く方は気持がよくても、読者には伝わらないことが多いと思う。
つまり、本書で小林氏は、黒澤明と同時代に生きた観客、そして映画評論家として、自分が観た“黒澤明”、“黒澤映画”について、的確な証拠、確実な資料と共に、読者にわかりやすく述べようとしています。
少年時代に出会った『姿三四郎』で感じた興奮、『酔いどれ天使』の衝撃、『生きる』のよく練られた構成やひとつひとつのシークェンスへの感動、『七人の侍』のセントラル・アイデアや豪快な戦闘シーンへの感嘆…。
そして、『用心棒』、『椿三十郎』、『天国と地獄』の大ヒットと、その後、名実共に“世界のクロサワ”、“クロサワ天皇”になった彼の空回り…。
黒澤明の隆盛を同時代に見てきた小林氏の言葉には、やはり体験した人だけにわかる実感が籠っています。
私にとっては、黒澤明という大監督は「世界の巨匠」で「観ておかないといけない必須項目」といった存在でした。
学生時代に、学校のライブラリーにあったレーザーディスク(時代を感じる…)で、勉強を兼ねていろいろ見漁ったものです。
『椿三十郎』(1962)
『用心棒』(1961)
『七人の侍』(1954)
『羅生門』(1950)
『生きる』(1952)
『酔いどれ天使』(1948)
『隠し砦の三悪人』(1958)
『天国と地獄』(1963)
『乱』(1985)
というような順序で、製作年など考えず、バラバラに観てしまっていたので、本書で時代順に各作品について語られていることを読み、「なるほど、こういう背景があったのか…」と改めて勉強になりました。
実は、学生時代に『乱』を観たときは、長いし、まったく面白いと感じなかったのですが、先日日比谷シャンテで行われていた特集上映で再見した時、ものすごく面白く感じました。
小さい画面で観るのと映画館のスクリーンで観るのと、環境の違いもあったのでしょうが、十数年の年月で、私も変化しているのでしょうか。
上記の他にも、『白雉』、『悪い奴ほどよく眠る』などは観たのですが、まだまだ観ていない黒澤映画が恥ずかしながらたくさんあります。
この本「黒澤明という時代」を読み、他の作品も早く観なければという思いを強くしました。
それにしても、リアルタイムで一人の映画監督の作品を観続けることができるというのは、やはり幸せなことなんですね。。。
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