【映画レビュー】光のほうへ / SUBMARINO
“ドグマ95”の創始者の一人であるトマス・ヴィンターベアが監督を務めた映画『光のほうへ』。
この作品は、デンマークはコペンハーゲンの貧困地区に生きる兄弟たちの絶望的な生活を描いている作品です。
アルコール中毒の母親にネグレクトされて育ち、大人になったのちは、自らも服役したり、麻薬中毒になってしまっている兄弟たち。
でも、邦題が示す通り、この作品には希望があります。
絶望的な生活の中に差し込む、一筋の希望の光に、人間の持つ強さや優しさを感じられる、そんな映画です。
STORY
アルコール中毒の母親からネグレクトされて育ったニック。彼には弟がいたが、成長してからは疎遠になっていた。暴力事件を起こして収監されていた刑務所から出た後、ニックは臨時宿泊施設で暮らしていた。彼は同じ施設で暮らすソフィーという女性と、刹那的な肉体関係を結んでいる。その頃、ニックの弟は、息子のマーティンと二人で楽しく暮らしていた。しかし、彼は実は麻薬を常用しており、経済的にも困窮していたのだった…。
解説
この作品の原題「SUBMARINO」は、頭をむりやり水に押さえつける拷問を意味しているそうです。
空気を求め、浮かび上がろうとする人間を、水中に押さえつけ、浮かび上がらせないようにする…。
この作品の主人公たちが送っているのは、まさにそんな日々です。
よりより生活を求め、浮かび上がろうとするけれど、何かに押さえつけられ、何かに足を引っ張られ、浮かび上がることができないでいる主人公たち。
彼らを押さえつけるのは、幼い頃の悲惨な記憶です。
子育てを放棄した母親、そして無力だった自分たちに対する怒りと嫌悪感が、成人した後も、彼らを刹那的な生活に導きます。
しかし、彼らには守らなくてはいけない存在がいました。
それは、マーティンという名の幼い子ども。
まだ幼く、人からの保護を受けなければ生活できないマーティンを、光の当たるところに連れて行かなければならない…。
その決意こそが、過去に捕われた自分自身を闇から救い出す、唯一の方法なのです。
この作品の監督、トマス・ヴィンターベアは、デンマーク発祥の映画運動“ドグマ95”の創始者。
本作でも、リアルな人間の生活をリアルに切り取って見せています。
しかし、本作の中では“ドグマ95”の“純潔の誓い”とはちょっと違うのではないかと思われる時制をちょっとズラして見せるという、テクニックも駆使されています。
しかし、起こった出来事の順番を少しズラして見せるというこの試みにより、主人公兄弟の哀しいすれ違いがはっきりと浮かび上がり、彼らの絶望をより深く感じさせる効果を与えているのです。
社会の下層で頼る者もなく行きる兄弟たちの人生をリアルに描きつつも、未来への希望を感じさせるこの映画『光のほうへ』。
どんな絶望的な状況でも、守るべき存在さえあれば希望を失わずにいられる…、そんな、人間の持つ底力を感じさせる、静かなパワーに溢れた一作です。
別コラム
作品情報
『光のほうへ』(114分/デンマーク/2010年)
原題:SUBMARINO
公開:2011年6月4日
配給:ビターズ・エンド
劇場:シネスイッチ銀座ほか全国にて順次公開
原作:ヨナス・T・ベングトソン
監督・脚本:トマス・ヴィンターベア
出演:ヤコブ・セーダーグレン/ペーター・プラウボー/パトリシア・シューマン/モーテン・ローセ
公式HP:http://www.bitters.co.jp/hikari/
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