クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落 / The Queen of Versailles
7200平米のグランドボールルームに15のベッドルーム、6つのプール。
岩の洞窟、25メートルの滝、巨大水族館、2つの映画館、フルサービススパ。
屋内ローラースケートリンクに2レーンのボーリング場、2面のテニスコートと200人の観客席を備えたテニス競技場、野球場、ゲームセンター、ボートハウス、2万本以上のワインが眠るワインセラー。
これ、ある夫婦が造ろうと計画した“自宅”の設備です。
でも、夫婦二人に7人の実子、1人の養子、計10人の家族の“自宅”に、なぜこれだけのものが必要なのか、99%の庶民にはようわからんですよ。。。
このドキュメンタリー映画『クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落』は、総工費100億円、8500平米の大邸宅、“ベルサイユ宮殿”を造ろうとしたある夫婦の、栄耀栄華からの華麗なる転落の物語です。
いやー、ほんと、こんな一般人の規格ではまずありえないことを思いついちゃう人って、ホントにいるんですね。
そして、規格外な人って、考え方、暮らし方、すべてが規格外。
それにしても、規格外な人ってやっぱり面白いな…。
<STORY>
2006年、タイムシェアリゾート・ビジネスで巨大な冨を築いたデヴィッド&ジャッキー・シーゲル夫妻は、“アメリカ最大の自宅を造る”という夢を叶えるため、総工費100億円、8500平米の家“ベルサイユ”の建設に着手する。成り上がった不動産王・デヴィッドと31歳年下の元ミス・フロリダというジャッキーは、8人の子どもたちと幸せに暮らしていた。しかし、2008年のリーマンショックで会社は危機に陥り、ベルサイユの建設も中断を余儀なくされる…。
<解説>
世界最大のタイムシェア(共同所有)会社へと成長したWestgate Resortsを立ち上げた、アメリカの大富豪デヴィッド・シーゲル。
彼は2000年に元ミス・フロリダの金髪美女、31歳年下のジャッキーと結婚します。
上記の条件だけ聞くと、
「不動産王と結婚する31歳年下の元ミスコン女王なんて、どうせ金目当てに結婚したトロフィー・ワイフでしょ」
なんて思っちゃいがちですが、さにあらず。
ジャッキーは夫・デヴィッドを純粋に愛し、7人の実子、1人の養子という8人の子を持つ“ビッグファミリー”を作り上げたのです。
デヴィッドは若い妻の愛に応えてさらに会社を成長させ、愛する妻ににふさわしいベルサイユ宮殿を造ろうとするのですが…。
映画の冒頭、ジャッキーとデヴィッドは、自信と喜びに満ちあふれた顔で、建造中の新居のことを語っています。
そこで描き出されるのは、何匹もの真っ白な小さい犬や、きちんと収納しきれずに雑然と積み重ねている美術品たち。
ジャッキーは、大きな胸の強調するようなタンクトップにデニムのホットパンツ、ビーチサンダル姿で、建造中のベルサイユを案内していきます。
ジャッキーもデヴィッドも、けして生まれついてのアッパー層ではありません。
あけすけで気さくな彼らは、自分の持つ才覚や魅力で、アメリカの上位1%のスーパーリッチ層に上りつめた、“アメリカンドリームの体現者”なのです。
しかし、シーゲル夫妻はもちろん、映画の製作者も予想すらしていなかった事態が勃発。
リーマンショックでデヴィッドの会社は窮地に陥り、巨額の負債を抱え、ベルサイユの建造も中止し、建造途中で売りに出すハメになってしまうのです。
映画は、ここで急速に趣が変わります。
カメラで写し出されるのは、ビジネスがうまく行かず、家族のことなど眼中になくなってしまう苦悩のデヴィッド。
そして、デヴィッドを支え、家族をもり立てようと努力するジャッキーの献身的な姿です。
でも、なんだかんだ言ってジャッキーはやはり“規格外の人”なんですね。
夫と子どものために用意した手作りのバースデー・ディナーもなんだかおかしなメニューだし(しかも美味しくなさそう)、節約をしようと色々と努力しているものの、なぜか不必要なおもちゃや自転車を車いっぱいに買い込んでしまうようなおかしな経済観念の持ち主だし。
決して悪い人間でもずるい人間でもない彼女、夫と家族を愛し、家族のために尽くそうとしているはずなのに、どこかいびつなのです。
アメリカの片田舎で育ってきたきれいな娘っ子が、努力と美貌と人柄の良さから、急激に富を得て、使いきれないくらいのお金を持て余し、地に足の付かない消費に走る。
でも、その富に見合うような教養や知識、高い意識なども持ち合わせていないため、他人から低く見られてしまう…。
それにひきかえ、自分が一から会社を興し成功させてきたデヴィッドは、「オレがブッシュを大統領にした」と言ってしまうような、海千山千の人物。
会社を大きくするためになりふりかまわず奔走し、今の地位を築き上げてきた人です。
そんな“地に足のついている”デヴィッドは、とんちんかんなことをして励まそうとしてくるジャッキーにイラだち、犬だけに心を開いていく…。
そんなジャッキーとデヴィッドの姿は、急激に成長したアメリカの“ニューリッチ層”のイビツさを象徴しているように見えたりも。。。
さらには、彼らの姿が“愛の女神と卑小な人間”、はたまた“働いたことのない能天気主婦と家族のために全てを捧げて働くビジネスマン”などと、見る人によって様々なものの象徴のように見えてくるのも面白いところです。
ひと組の夫婦の“家”を通じ、アメリカ社会のいびつな構造まで描き出している本作、エンターテインメントとしても楽しめるのに、痛烈な社会批判にもなっているドキュメンタリーです。
2013年にデヴィッド・シーゲルはこのベルサイユ宮殿の建設再開を宣言したそうですが、果たして本当にうまくいくのか。
この映画を巡りデヴィッドから名誉毀損で訴えられたローレン・グリーンフィールド監督、裁判にも勝利したことですし、ぜひともこの“ベルサイユ宮殿”の夢の物語を、最後まで記録して欲しいものです。
『クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落』(100分/アメリカ=オランダ=イギリス=デンマーク/2012年)
原題:The Queen of Versailles
公開:2014年8月16日
配給:スターサンズ
劇場:新宿武蔵野館ほかにて
監督:ローレン・グリーンフィールド
出演:デヴィッド・シーゲル/ジャッキー・シーゲル
公式HP:http://www.queen-cinema.jp/
売り上げランキング: 57,500
集英社
売り上げランキング: 712
売り上げランキング: 5,621