【映画レビュー】ポトフ 美食家と料理人 / La Passion de Dodin Bouffant
19世紀のフランスに実在し、美食家として知られるジャン・アンテルム・ブリア=サヴァラン。このブリア=サヴァランをモデルにしたマルセル・ルーフの著作「The Life and Passion of Dodin Bouffant, Gourmet(美食家ドダン・ブーファンの生涯と情熱)」を映画化した『ポトフ 美食家と料理人』。
ベル・エポックの時代にガストロノミー(美食学)に生きる美食家と、彼の思ったとおりの美食を実現化させる料理人。
彼女にとっては、料理人であることこそがアイデンティティであり、愛する男の妻になることより、美食家と協力して最高の料理を具現化していく口福こそが幸福なのだという、二人にしかわからない最高の関係性を美しい映像で描いた、目にも美味しい料理映画です。
STORY
1885年。美食家のドダンのシャトーでは、4人の美食仲間を招いての午餐会が行われていた。料理を作るのは、料理人のウージェニー。彼女はドダンが閃いたレシピを完璧に再現できる唯一の料理人で、ドダンとは愛と信頼で結ばれている。彼女のアシスタントであるヴィオレットは、幼い姪のポーリーヌを連れてきた。料理を試食したポーリーヌは、その中に入っている素材を当ててみせた。ウージェニーはポーリーヌをスカウトするが……。
解説
ベトナム生まれ、フランス育ちのトラン・アン・ユン監督が手がけた映画『ポトフ 美食家と料理人』は、19世紀のフランスを舞台に、“美食”というテーマで結びついた二人だけにわかる愛の形を描いた作品です。
美食家のドダンをブノワ・マジメルが演じ、ドダンの料理人であり愛人でもあるウージェニーをジュリエット・ビノシュが演じています。
さらに、料理監修を勤めているのは、三ツ星シェフのピエール・ガニェール(シェフ役で出演も!)というぜいたくさ。
映画の冒頭から、彼らの関係は明示されないまま、ウージェニーはひたすらに料理を作り続けます。そしてドダンも彼女に協力したり、助言をしたり、味見をしたりするのです。
特に心情を示すような言葉のやりとりはないのですが、料理に関するやりとりや、彼らが言葉を合わさずに協力し合う様子からは、彼らの心が通じあい、尊敬し、信頼しあっている様子が伝わってきます。
この二人の関係性、かつてパートナーだったブノワ・マジメルとジュリエット・ビノシュだからこそ、表現できるものでもあるのかもしれません。
カメラは、彼らが料理していく様子をワンカットで流れるように映し出します。
細かくカット割をせず、一連の流れで複数の料理ができあがっていく過程を見ることができるのです。自然光のもと、調理台やコンロ、オーブンの間を、登場人物たちが行き来しながら料理を作っていく様子も、美しい……。
1980年代のシャトーのキッチンの広さと機能性、当時の調理道具の素朴で機能的な形、食器やサーブ方法などもすばらしく、彼らの暮らしぶり、調理ぶりを見ているだけでも、贅沢な感覚を味わえます。目にで伝わってくる美味しさ、その眼福たるや。
さらに、その背後に聞こえてくる豊穣な音の数々も出色です。野菜を切る音だったり、ソースを混ぜる音だったり、肉がソテーされる音だったり。
その調理音に、耳でも美味しさを感じられるはず。。。
この料理風景や自然音、そして俳優陣の自然なやりとりから、彼らの強い関係性と連帯を映し出した本作。
2023年の第76回カンヌ国際映画祭で最優秀監督賞を受賞したのも納得の、繊細で美しい芸術的な一作でした。
作品情報
『ポトフ 美食家と料理人』(136分/フランス/2023年)
原題:La Passion de Dodin Bouffant
英題:The Pot-au-Feu
公開:2023年12月15日
配給:ギャガ
劇場:Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
監督:トラン・アン・ユン
料理監修・出演:ピエール・ガニェール
出演:ジュリエット・ビノシュ/ブノワ・マジメル/ガラテア・ベルージ/ボニー・シャニョー・ラヴォワール/エマニュエル・サランジェ/パトリック・ダスンサオ/サラ・アドラー/ヤン・ハムネカー/フレデリック・フィスバック/ジャン=マルク・ルロ/ヤニック・ランドライン
Official Website:https://gaga.ne.jp/pot-au-feu/
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©Carole-Bethuel ©2023 CURIOSA FILMS- GAUMONT – FRANCE 2 CINEMA
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