【映画レビュー】ザ・ファイター／ The Fighter

2011/2/23 外国映画さ行, 映画レビュー

相変わらずのカメレオンぶりのクリスチャン・ベールの怪演と、メリッサ・レオのモンスター・マザーな演技でアカデミー賞助演男優＆女優賞獲得の本命とも言われている映画『ザ・ファイター』。
ちなみに、アカデミー賞6部門にて7ノミネートされています。

メリッサ・レオの方が本命っぽいですが、同じアカデミー賞助演女優賞にノミネートされているエイミー・アダムスの演技も、かなり良かったです。
あんな蓮っ葉なエイミー、初めて見たぞ…。

それにしても、あまり話題に上ってはないですが、この作品の主演はマーク・ウォールバーグです。。。なんかちょっとかわいそう。
彼だって、体を鍛え上げて、ボクサー役をかなり熱演してるのにね。

＜追記＞
※第83回アカデミー賞では、この作品のクリスチャン・ベールが助演男優賞を、メリッサ・レオが助演女優賞を受賞しました。

　
＜STORY＞
かつてはボクサーとして注目されていたが、ドラッグ中毒で落ちぶれたディッキーを異父兄に持つボクサーのミッキー。ディッキーがトレーナー、母がマネージャーをしているが、当座のファイトマネー欲しさにひどい試合ばかり組まれ、一勝もできない。そんな中、ミッキーが窃盗事件を起こして刑務所に入ることに。それを機に、ミッキーは兄や母から離れ、新しいトレーナーや恋人・シャーリーンのもとでボクサーとして戦うことにする。

　
＜解説＞
実在のボクサー、ミッキー・ウォードとその兄・ディッキー・エクランドの姿を描いた本作。
しかし、ただのボクサーの物語ではなく、あるボクサーの“家族との戦い”、“家族愛”を描いた物語でもあります。

この二人の家族は、なんとも強烈です。

母・アリス・ウォード（メリッサ・レオ）を中心に、前夫・エクランドとの間に生まれたディッキー・エクランド（クリスチャン・ベール）、現夫・ウォードとの間に生まれたミッキー・ウォード（マーク・ウォールバーグ）という二人の兄弟と、7人の姉妹たち。

労働者階級の家庭で、家族はミッキーのファイト・マネーに頼って生活しています。

母・アリスは家族に対して強い愛を抱いてはいますが、深いことは考えない人物。
感情も激しく、その時々のフィーリングで行動を起こします。

兄・ディッキーはかつては注目されたボクサーでしたが、現在ではクスリに溺れ、自堕落な生活を送る日々。
愛嬌がある人気者ではありますが、享楽的で自制心に乏しい人間です。
家族のことを愛してはいるけれど、何をやっても家族に迷惑をかけてしまう“ダメな兄”。

ミッキーは家族の義務として、ファイトマネーを稼ぐために本意ではない試合を重ねてはいるけれど、自分のボクサーとしての可能性を考えると、家族と共にいることが自分のためにはなっていないとわかっています。
“自分のことを思ってくれてはいるけれど、自分のためにはならない”家族を捨てる決断は、なかなか出来ない…。
家族のためにやりたいことも我慢して頑張る、“聞き分けのいい弟”なのです。

そんな中、ある事件が起こり、ディッキーとの決別を決意するミッキー。
ミッキーのことだけを考えてくれる恋人・シャーリーン（エイミー・アダムス）に背中を押され、ミッキーは初めて家族の影響から離れて、ボクサーとして独り立ちしようとするのでした。

切りたくても切れない、愛しているのに傷つけてしまう、そんな複雑な家族愛に彩られたボクサーの物語『ザ・ファイター』、「ボクシングとかはちょっとニガテ」というような女性にも観てほしい作品です。

しかし、こう考えてみると、ミッキーにストレスを与えていた母と兄、ミッキーを助けてくれた恋人を演じた俳優たちがアカデミーにノミネートされ、彼らに振り回されていたミッキー本人がノミネートされていないのが、なんだか皮肉なところ。
まあ、振り回されて悩む普通人の役どころより、振り回すモンスター的な人物の方が、エキセントリックな演技で目立ちやすいというところもあるのかもしれませんね。
もちろん、彼らは全員素晴らしい演技を見せてくれているので、アカデミー・ノミニーにふさわしい役者さんたちだと思いますが…。

ちなみに、ディッキーから離れたミッキーを支えるトレーナーのオキーフ氏を演じているのは、本物のミッキー・ウォードのトレーナーを務めたオキーフ氏本人なのだとか。
他にも、ミッキーの姉妹たちや実の叔父などもキャスティングされているそうです。
労働者階級の街・ローウェルの、明るいけれども閉塞的な雰囲気にリアリティがあるのは、そのあたりにも理由があるのかもしれません。

　
別コラム：オトコに見せたいこの映画『ザ・ファイター』
　

『ザ・ファイター』（116分／アメリカ／2010年）
原題：The Fighter
公開：2011年3月26日
配給：ギャガ
劇場：丸の内ピカデリーほか全国にて順次公開
監督：デヴィッド・O・ラッセル
俳優：マーク・ウォールバーグ／クリスチャン・ベール／エイミー・アダムス／メリッサ・レオ／ジャック・マクギー／フランク・レンズーリ
公式HP：http://thefighter.gaga.ne.jp/