【映画レビュー】大統領の執事の涙 / Lee Daniels’ The Butler
実在した、黒人の“大統領の執事”の物語にインスパイアされた作品、というだけの前情報で観に行った映画『大統領の執事の涙』。
観終わってみると、思っていた以上に黒人への差別問題を扱っていた内容に驚きました。
それとともに、つい最近まで、アメリカ国内でこんなひどい黒人差別が平然と行われていた、ということにも、驚きを禁じ得ませんでした。
不勉強でお恥ずかしいのですが、ひどい黒人差別、人種差別などは、私が生まれる前の出来事で、今となってはそんなことなどないと、なぜか信じ込んでしまっていたのです。
映画『プレシャス』で、母親からの虐待やネグレクトを受けている黒人の少女が、知識と支援者を得て、成長して行く姿を描いたリー・ダニエルズ監督、本作では黒人の父と息子が、それぞれのやり方で人種差別を打開して行く姿を描いています。
“白人に素直に従って黒人の有能さを認めさせる”父親と、“白人と真っ向から戦い黒人の権利を勝ち取る”息子、彼らのように強い意志を持って戦ってきた人がいたからこそ、現代の社会があるのだと思います。
現代に生きる私達は、その恩恵を受け止めつつ、それを良い方向に発展させるように生きていかねば。
肌の色や人種の違いなどで憎み合うなんて、歴史から学ぶことのできない人のやることです。
<STORY>
アメリカ南部で奴隷の子として育った黒人のセシル・ゲインズは、農園を逃げ出し、ホテルのボーイとして働き始める。ワシントンのホテルで働いていた時、スカウトされ、アイゼンハワー大統領が暮らすホワイトハウスで執事として働くことに。執事として認められ、妻・グロリアとの間に二人の子にも恵まれ、奴隷時代とは比べ物にならない幸せな生活を送っていた。しかし、世間ではまだ黒人に対する差別は激しく、セシルの長男・ルイスは公民運動に身を捧げていく…。
<解説>
アメリカの政治の中枢・ホワイトハウスで執事(バトラー)として、第34代アメリカ大統領ドワイト・D・アイゼンハワー(共和党)、第35代大統領ジョン・F・ケネディ(民主党)、第36代大統領リンドン・ジョンソン(民主党)、第37代大統領リチャード・ニクソン(共和党)と、共和党・民主党問わず、何代もの大統領に仕えたセシル・ゲインズの生き様を描いた本作。
アメリカ南部の奴隷の子どもとして生まれた彼は、ハウスニガー(給仕など主人の世話をする黒人奴隷)としての教育を受けた後主人の家を脱走し、ホテルのボーイからバトラーへ、自分の努力と幸運で道を切り拓いてきた黒人男性です。
やがて、ホワイトハウスのバトラーとしてスカウトされ、大統領や大物政治家たちを世話する地位まで上っていきます。
奴隷として、人権もない生活を送っていたことから考えると、ホワイトハウスでハイクラスの人びとの生活を間近で体験し、自分も結婚して家を持ち、二人の子どもを大学まで行かせるようになったことだけでも、大きな前進かもしれません。
しかし、彼がホワイトハウスで要人たちの世話をしている間も、白人は黒人をあたりまえのように差別していました。
奴隷としての生活を知らないセシルの息子・ルイスにとっては、黒人だからというだけで差別を受けるのは、納得できないこと。
ルイスはあえて差別が色濃く残っている南部の大学に進学し、差別反対運動に身を投じて行きます。
そして、逮捕されたり、KKKに襲われたりしながらも、差別反対運動を成し遂げていくのでした。
様々な大統領や活動家などが実名で登場する本作、ワシントンのホワイトハウスで生きる一人の黒人バトラーの目から、アメリカの歴史を観客に教えてくれます。
本作を見ると、アメリカがどのように発展したのか、黒人差別という観点から知ることができます。
こうやって一人一人の当事者たち全員が目に見えぬ戦いをしてきた結果が、今のアメリカという国なのでしょう。
アメリカだけでなく、日本も、その他の国も、抱えている一つ一つの問題を、こうやって地道に解決していくしかないのだということを、本作は教えてくれました。
『大統領の執事の涙』(132分/アメリカ/2013年)
原題:Lee Daniels’ The Butler
公開:2014年2月15日
配給:アスミック・エース
劇場:新宿ピカデリーほか全国にて
原作:ウィル・ヘイグッド
監督:リー・ダニエルズ
脚本:ダニー・ストロング
出演:フォレスト・ウィテカー/オプラ・ウィンフリー/ジョン・キューザック/ジェーン・フォンダ/テレンス・ハワード/レニー・クラヴィッツ/ジェームズ・マースデン/デヴィッド・オイェロウォ/ヴァネッサ・レッドグレイヴ/アラン・リックマン/リーヴ・シュレイバー/ロビン・ウィリアムズ/キューバ・グッディング・Jr/ヤヤ・ダコスタ/コールマン・ドミンゴ/イライジャ・ケリー/ミンカ・ケリー/アレックス・ペティファー/アムル・アミーン/デヴィッド・バナー/マライア・キャリー/ネルサン・エリス
公式HP:http://butler-tears.asmik-ace.co.jp/
KADOKAWA / 角川書店 (2014-08-15T00:00:01Z)
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