【映画レビュー】剣の舞 我が心の旋律 / Tanets s sablyami
アラム・ハチャトゥリアンの名前は知らなくとも、そのメロディはきっと誰もが聞いたことがあるであろう、クラシック音楽の超有名曲「剣の舞」。
バレエ「ガイーヌ」のために書かれたこの名曲が、たったの8時間で作曲されたというエピソードは、けっこう有名なのだとか。
この映画『剣の舞 我が心の旋律』では、ハチャトリアンがこの曲の作曲に至るまでの約2週間の日々が描かれています。
この曲はなぜ作られたのか? この曲にハチャトリアンはどのような思いを込めたのか?
この映画を観たあとは、運動会などで聞く「剣の舞」のメロディが、まったく違う意味を持って聞こえてくるかもしれません。
STORY
1942年、モロトフに疎開していたキーロフ記念レニングラード国立オペラ・バレエ劇場は、新作バレエ「ガイーヌ」の練習に励んでいた。そんなある日、上演前の検閲のため、文化省のプシュコフがやってきた。プシュコフはプレミアまで1週間という時になって「ガイーヌ」の結末を変更し、士気を鼓舞する勇壮な踊りを追加するように命じる。プシュコフは作曲家のアラム・ハチャトリアンと過去に因縁があり、彼に復讐しようとしていたのだ。
解説
この物語の舞台は、1942年、第二次世界大戦中のソビエト連邦。スターリン支配下のソ連で、多くの人たちが粛清されていた時代です。
そんな中、戦火を逃れてモロトフに疎開していたキーロフ記念レニングラード国立オペラ・バレエ劇場では、新作バレエ「ガイーヌ」の公開へ向けて練習を重ねていました。
そこにやってきたのが、文化省の役人・プシュコフ。
芸術であり娯楽であるバレエと言えども、粛清の波とは無縁というわけにはいきません。支配者の意に沿わない作品は制作も上演もできないという抑圧されたこの時代に、プシュコフは新作バレエの内容を検閲しにやってきたのでした。
国を追われ、トルコにより多くの民を虐殺されたという悲惨な歴史を持つアルメニアの血を引くハチャトリアンは、アルメニア人の心の叫びを自身のテーマとしようとしていました。
世間の傍観がアルメニアの虐殺を許し、ファシズムの台頭を許し、ユダヤ人の虐殺を許したと考えるハチャトリアンは、音楽を通して暗にそのテーマを世間の人々に訴えようとしていました。
そんなハチャトリアンを取り締まろうと、プシュコフは虎視眈々と策を練り、さまざまな罠をしかけていたのです。
そしてプシュコフは、「ガイーヌ」の上演1週間前になって、曲目の追加と結末の変更を命じてきます。
ハチャトリアンは、プシュコフが仕掛けた卑劣な罠への怒り、粛清の時代の理不尽さの怒り、祖国アルメニア人への思いなどを込めた曲を、たったの一晩で書き上げました。
猛々しいメロディに合わせて踊る剣士たちの勇壮な舞は、すなわちハチャトリアンの怒りの表現でもあるのです。
ユスプ・ラジコフ監督は、ハチャトゥリアンの人生と仕事に関係する事柄を詳しく調べ、この脚本を書き上げたそう。
実は、プシュコフや、ハチャトリアンに思いを寄せるバレリーナのサーシャらの存在は、監督の創造なのだとか。
しかし、これら架空のキャラクターたちも、ハチャトリアンの実人生で出会った実在の人物たちをもとに作られたそうです。
架空の登場人物たちが登場する物語であっても、ハチャトリアンが曲に秘めた思いや、その人生で抱えてきたテーマは本物です。
虐げられてきた人の怒りや悲しみ、蛮行を見て見ぬふりをする世界への苛立ち、そういったものが彼の音楽には秘められているのです。
アルメニア出身の作曲家、ハチャトリアンの物語をウズベキスタン出身のユスプ・ラジコフ監督が描いた、エモーショナルな音楽映画です。
作品情報
『剣の舞 我が心の旋律』(92分/ロシア=アルメニア/2019年)
原題:Tanets s sablyami
英題:Sabre Dance
公開:2020年7月31日
配給:アルバトロス・フィルム
劇場:新宿武蔵野館ほか全国にて順次公開
監督・脚本 ユスプ・ラジコフ
音楽:アレクセイ・アルティシェフスキー/アンドラニク・ベルベリャン
出演:アンバルツム・カバニアン/アレクサンドル・クズネツォフ/セルゲイ・ユシュケビッチ/アレクサンドル・イリン/ヴェロニカ・クズネツォーヴァ/ヴァディム・スクヴィルスキー/インナ・ステパーノヴァ/イヴァン・リジコフ
Official Website:https://tsurugi-no-mai.com/
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