【映画レビュー】マイスモールランド
在日クルド人の少女を主人公に、日本で暮らしているクルド人が抱える問題を描いた映画『マイスモールランド』。
是枝裕和監督率いる映像制作者集団「分福」の若手映画監督・川和田恵真が描いた本作は、モデルの嵐莉菜を主人公に迎え、一人の少女の葛藤や苦しみ、悩み、家族愛や淡い恋心などを描いています。
国家に翻弄される一個人を描き、社会の問題を炙り出しつつも、エンターテインメント作品としても楽しめるこの作品、2022年の第72回ベルリン国際映画祭でアムネスティ国際映画賞・特別表彰を受けるにふさわしい、今観ておくべき一作だと思います。
STORY
父と妹、弟の4人で埼玉県川口市に暮らす在日クルド人少女のチョーラク・サーリャ。高校生の彼女は、荒川を越えて東京のコンビニでアルバイトをしていた。サーリャはバイト仲間の聡太と仲良くなり、初めて自分がクルド人であることを告白する。ある日、難民申請が却下され、チョーラク一家は在留資格を失ってしまう。働くことも禁止され、申請なしでは埼玉県から出ることもできなくなる。やがて父親が入管に収容されることとなり……。
解説
“国家を持たない世界最大の民族”と呼ばれるクルド人。1990年代に、トルコ政府の迫害から逃れて日本にやってきたクルド人を中心に、現在では約2000人のクルド人が日本に居住しているそうです。
この映画『マイスモールランド』は幼い頃にトルコからやってきた17歳の在日クルド人少女・サーリャの物語です。
日本で成長したサーリャは、普段は普通の女子高生として生活し、アルバイトをし、恋をしています。将来は日本で教師になりたいという夢もあります。
日本語・トルコ語などを流暢に話す彼女は、クルド人コミュニティの中でも通訳などボランティア的な役割を果たしたりも。
そんななか、一家の難民申請が却下されたことで、彼女と家族の生活はだんだん破綻していきます。
日本で育ち、日本で暮らしたいと思っているのに、国は彼女たち家族を難民と認めてくれない。周りの人たちも悪気のあるなしに関わらず、彼女たちを“外国人”として扱うのみ……。
彼女はそんな現実のなかで、懸命に生きていくしかありません。父親が入管に収容されてしまったため、サーリャは一家の年長者として妹と弟を食べさせていかなければならないのです。
彼女に恋をする日本人少年は「うまくいかないね」と言いました。そんなうまくいかない現実のなか、サーリャは自分の人生、そして家族の人生を切り拓いていかねばならないのです。
そして、サーリャのパパは、子どもたちの生き抜く力を信じて、ある大きな決断をします。
親であれば、子どものことが何よりも心配なはず。
それなのに、子どもたちのためにベストな決断として選ぶのが、子どもたちとの別れだなんて。
しかも、それは自分にとっては最悪な、命さえ保証されないことだというのに……。
そこまでして、彼は“子どもたちの生き抜く力”と“日本という国の安全”を信じたのです。
日本は、そこまで信じるに足る国なのでしょうか。。。
その決断には、涙が止まりませんでした。誰だって、父親は子どもたちのことが心配なのでしょうに……。
この『マイスモールランド』は、この多様化の時代にも関わらず、まだまだ閉鎖的な日本という国の、一つの現実を教えてくれる物語です。
「うまくいかないね」と言って目を伏せているだけでは、世界は変わらないのです。
本作が長編映画デビューとなる1991年生まれの川和田恵真監督、そしてサーリャを演じて映画デビューを果たした嵐莉菜。複数の国にルーツをもち、日本で生きている彼女たちだからこそ作り上げることができた、深く、強く、そして見応えのある素晴らしい映画でした。
作品情報
『マイスモールランド』(114分/日本/2022年)
公開:2022年5月6日
配給:バンダイナムコアーツ
劇場:新宿ピカデリーほか全国にて
監督・脚本:川和田恵真
音楽:ROTH BART BARON
出演:嵐莉菜/奥平大兼/平泉成/藤井隆/池脇千鶴/アラシ・カーフィザデー/リリ・カーフィザデー/リオン・カーフィザデー/韓英恵/サヘル・ローズ/吉田ウーロン太/板橋駿谷/田村健太郎/池田良
Official Website:https://mysmallland.jp/
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©2022「マイスモールランド」製作委員会
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