【映画レビュー】ラヴレース ／ Lovelace

『レ・ミゼラブル』のアマンダ・サイフリッドが“伝説のポルノ女優”リンダ・ラヴレースを演じる本作。

リンダの夫であり、彼女を操る男・チャックを『17歳の肖像』のピーター・サースガードが演じています。
このピーター・サースガード、優しげな顔で女をたぶらかす怪しげな男を演じたら、天下一品！
厳格な家庭で育ったが故に男のうさんくささを魅力に感じてしまったウブな娘っ子のリンダを、様々な手練手管でたらし込み、さらにはセックスでも虜にし、ポルノ女優にまでしてしまうチャックというヒモ男を、憎たらしさ、可愛らしさ、さらに哀れさをも感じさせる演技を見せています。

この作品、厳格な家庭から解き放たれて自由を得て、夫の言うままにポルノ女優となり、一躍スターダムに駆け上がった何も知らない少女を演じています。
映画前半では、彼女の人生の華やかな側面を映し出し、映画後半では彼女の人生の辛く暗い側面を描き出しているのです。
彼女は17日間だけ、ポルノ女優として仕事をしました。
その17日間が彼女をスターにし、伝説にし、カリスマにしました。
そして、同時に彼女の人生に、すべての人から“ポルノ女優”として扱われるという、なかなか剥がれないレッテルを貼付けたのです。

彼女の激動の人生を描いたこの作品で、私がもっとも印象に残ったのは、シャロン・ストーン演じる彼女の母親との関係性です。

若かったリンダは一度は両親の元から出て行ったものの、チャックからのひどい仕打ちに耐えかね、実家に戻ろうとします。
そんな彼女に、母親は「結婚したのだから我慢しなさい」と、チャックの元に戻るように言うのです。

自分たちの世代は理不尽な世間に耐えたのだから、娘たちも耐えなければならない。
離婚だなんて、カトリックの精神にはありえない。
自由を選んで自分たちから離れて行った娘は、多少の理不尽には耐えなければならない。

自分の人生を不幸だと思っている母親は、無意識のうちに娘にも不幸を強い、娘も娘で無意識のうちに母親より幸せになってはいけないと思っていたりするという、現代の女性たちが多く抱える問題も、この作品には描かれているように思います。

化粧っ気もない地味な衣装でフロリダの主婦を演じるシャロン・ストーンは、見事に現代の“不幸な主婦”の姿を体現していました。

この映画『ラヴレース』、冒険をしたい年頃の若い女性や、そんな娘を持つ母親たちに観て欲しい一作。
他人や親から搾取されないように、自分の人生を生きられる女性が一人でも増えて欲しいと思わせてくれる作品です。