【映画レビュー】カポネ ／ Capone

『アンタッチャブル』、『スカーフェイス』、『暗黒の大統領カポネ』など、多くの映画の題材にもなっている実在のギャング、アル・カポネ。
本作『カポネ』では、そのアル・カポネの晩年、フロリダ州の豪邸で暮らすカポネの姿が描かれています。

スカーフェイスと呼ばれる傷のある顔に、さらに梅毒によってあばたができ、さらに脳にも影響が現れ、痴呆症や記憶障害を発生していたという晩年のカポネ。
葉巻の代わりにニンジンを加え、ベッドで粗相をし、だらしないパジャマ姿で室内をうろうろする姿は、なんとも悲惨です。

アメリカ一悪名高い男として、一時代を築き、多くのものを手にし、多くのものを破壊してきた男の晩年とは、かくも哀しいものなのでしょうか……。

この作品、企画当初は“Fonzo”というタイトルで企画が進んでいたそう。
フォンゾというのは、作中でのアル・カポネの呼び名です。アルフォンス・ガブリエル・カポネ（Alphonse Gabriel Capone）という本名から、彼はフォンゾと呼ばれていたようです。

今作は、アル・カポネというよりもむしろフォンゾの物語。
ここに出てくるアル・カポネは“暗黒街の顔役”などではなく、40代にして痴呆を患った哀しい男。
かつての栄光を記憶に留めてはいるけれど、今は自分が何をしているのかもわからない、そんな男なのです。

この悲惨なカポネを演じるのは、『ヴェノム』、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のトム・ハーディ。
アル・カポネ役にはまだ若いのでは…という気もしていましたが、1977年生まれの彼は、2018年の撮影時、41歳。
アル・カポネの享年は48歳なので、年齢的にはそこまで離れてはいないのでした。
フォンゾになり切るため、毎回メイクアップに4時間という時間をかけ撮影に臨んだというだけあって、その鬼気迫る容貌は、まさに死期の近づいた悪鬼そのもの。毒気が抜けている分、底しれぬ恐ろしさを感じさせます。

　
かつて暗黒街の顔役として数々の悪事を働いてきたアル・カポネ。
禁酒法の時代に酒の密売でのしあがり、“暗黒街の顔役”として知られる有名なギャングとなりました。
1929年2月14日には聖バレンタインデーの虐殺、血のバレンタインデーとして知られる抗争事件などを起こします。
やがて、1931年に脱税の容疑で逮捕され、刑務所に収監されることに。
獄中にいる間に、若い頃に罹患した梅毒による痴呆症状が出始めました。
そして1939年11月、約10年の刑務所生活を終え、妻のメエとともに、フロリダの豪邸で暮らし始めるのです。

FBIはそんなカポネの監視や盗聴を続け、スパイとして医師を送り込みます。
カポネがいまだに隠し金を持っているのではないかと疑い、それを見つけようとしていたのです。

カポネ自身も旧友・ジョニーに「1000万ドルをどこかに隠している」と語ったりしますが、それが痴呆の症状なのか、真実なのか、誰にもわからない。。。

カポネ、いやフォンゾは、妻のメエと平和な暮らしをしながらも、過去の悪夢に悩まされています。
その夢に出てくるのは、過去の抗争で殺した者たち。かつて自分が実際に起こした事件の記憶が、牙を剥いてくるのです。
そして、今彼の周りにいる人間が自分を裏切っているのではないかと、意外な行動を起こすのです。

48歳、通常で言うと壮年というべき年齢ながら、おいさらばえたフォンゾの姿は、悪党の悲哀そのもの。
かつてはギャングスターとして一般の人々からも注目され、財をなしながらも、晩年には痴呆症となり、おむつをして息子とすら話もできない……。
混濁した意識の中で、フォンゾは誰を最後に思い出したのでしょうか。