【映画レビュー】さよなら、アドルフ / Lore
戦争というと、どうしても被害者側の悲劇が強調されがちなものです。
しかし、それは人間が引き起こしたものである以上、被害者がいれば加害者も必ずいるもの。
この映画『さよなら、アドルフ』は、第二次世界大戦時のナチス・ドイツの“加害者家族の悲劇”を描いたものです。
どんな惨たらしい事態を引き起こした人にも家族がいて、それぞれに懸命に日々を送っている…。
そんなことを実感させてくれる作品です。
<STORY>
1945年、ドイツ。ナチの高官の娘として何不自由なく暮らしていた14歳のローレだったが、終戦と共に父と母は連合軍に拘束されてしまう。4人の妹弟たちと取り残されたローレは、900キロ離れた祖母の家を目指し、過酷な旅に出る。旅の途中、ローレは父と同じナチの幹部がユダヤ人虐殺を指揮している写真を目にした。ショックを受けている彼女に、トーマスというユダヤ人の青年が近付いてくる。トーマスはローレたちの危機を救うが…。
<解説>
この映画のタイトルにある“アドルフ”とは、言わずとしれたアドルフ・ヒトラーのことです。
とは言え、映画の中にアドルフ本人が出てくることはありません。
本作は、ナチの高官を父に持ち、ヒトラーを信奉していた少女・ローレの過酷な旅をし、父と慕っていたアドルフから決別していく様を描く物語です。
ローレは妹と双子の弟、さらに赤ん坊という幼い妹弟4人を連れて、900キロの旅を年長者として率いていくことになります。
頼れる父も母もおらず、助けてくれる人もいない。
しかも、愛する父がユダヤ人虐殺を指揮していたことを初めて知り、ショックを受けます。
さらに、自分より劣っていると信じていたユダヤ人青年と初めて出会い、彼に助けてもらわなければいけないことに屈辱を感じたり。
そして、妹弟たちのために、娼婦じみたことまでするハメになります。
これまで信じていたことがすべて覆され、彼女は少女から大人へと成長せざるを得なくなるのです。
オーストラリア出身のケイト・ショートランド監督は、クローズアップを多用し、不安定な手持ちカメラでローレの揺れる心情を繊細に映し出しています。
彼女が大写しにするのは、子どもたちの表情や、人びとの足もと。
靴、汚れた裸足、靴下と、彼らの置かれた状況を如実に表す足もとを何度も何度も映し出すことで、終戦直後という時代の空気を、鮮やかに切り取って見せてくれました。
『さよなら、アドルフ』(109分/オーストラリア=ドイツ=イギリス/2012年)
原題:Lore
公開:2014年1月11日
配給:キノフィルムズ
劇場:シネスイッチ銀座ほか全国にて順次公開
原作:レイチェル・シーファー
監督・脚本:ケイト・ショートランド
出演:ザスキア・ローゼンダール/カイ・マリーナ/ネーレ・トゥレープス/ウルシナ・ラルディ/ハンス=ヨヒェン・ワグナー/ミーカ・ザイデル/アンドレ・フリート/エーファ=マリア・ハーゲン
公式HP:http://www.sayonara-adolf.com/