哀しき獣／ 황해

2011/12/17 外国映画か行, 映画レビュー

『チェイサー』のナ・ホンジン監督が贈る衝撃の韓国映画『哀しき獣』。

観ている最中、まさに鈍器で頭を殴られるような衝撃を味わうことができます。

スイートなラブストーリーだけでなく、こういう人間の本質をえぐるような映画を生み出せるのが、韓国映画の底力だよなあ。。。

体力のある時、気力が充実している時に観ていただきたい一作です。
しかし、ゆめゆめデートなどでは観に行かないようにしてください。

必見の作品ではありますが、バイオレンスシーンが苦手な人にはキツ過ぎるだろうなあ。。。

＜STORY＞
中国にある朝鮮族自治州・延辺に暮らすグナム。彼の妻は韓国に出稼ぎに行っているが、連絡がとれなくなる。妻の入国資金のために作った借金の返済に困るグナムに、犬商人のミョンから「韓国へ行き、キム・スンヒョンという男を殺せば借金を帳消しにしてやる」という提案が。グナムは黄海を渡って韓国に密入国し、妻を捜しながらキム・スンヒョンを殺す機会をうかがっていた。しかし彼の目の前で、別の殺し屋がキム・スンヒョンを殺してしまう…。

＜Cheeseの解説＞
この映画の主人公・グナムと、グナムに殺しを命じる犬商人のミョンは、中国に居住する朝鮮族。
中国籍でありながらも、朝鮮出身の少数民族として、韓国語などを解する人びとです。

朝鮮族の人びとが多く居住する中国延辺朝鮮族自治州で貧しい生活を送っていたグナムは、借金返済のため、中国大陸と朝鮮半島の間にある黄海を渡り、韓国に密入国します。

韓国の体育大学教授キム・スンヒョンを殺そうとしていたグナムは、別の組織の殺し屋がキム・スンヒョンを殺す場面を目撃。
その組織からも追われるハメになります。

そして、もともと殺人の指令を受けたミョンとその部下からも追われることになり、韓国を逃げ回るグナム。
行方不明になっていた妻の消息に関するニュースを聞き絶望した彼は、韓国組織の殺し屋、そしてミョン率いる部下たちとも壮絶な殺し合いを繰り広げながら、再び黄海を目指すのですが…。

グナムと韓国組織、ミョン軍団たちとの三つ巴の殺し合いは、激烈のひとこと。
飛び道具ではなく、包丁や手斧といった武器を駆使して、刺し殺し、殴り殺し合うのです。
いろんな死に方があるとは思いますが、手斧で殴り殺されるというのは、かなり避けたい死に方の一つですね。。。

グナムの前にあるのは、救いようのない現実。
貧しい暮らしから抜け出そうとし、借金をして韓国へ出稼ぎにいった妻は戻ってきません。
犬商人からは殺しを命じられ、ヒットマンとして使い捨てにされます。
韓国人からは「お前は朝鮮族だろ、国へ帰れ」と差別され、さらには殺し屋に追われるハメに。
身を守る術も、頼れる人も、安心して眠れる場所もない、野良犬のような日々を送るしかないのです。

しかし、韓国と中国を隔てる黄海を目指し、彼はとにかく戦い抜きます。
つらい現実の中、命をかけて必死で戦い抜く男の姿は、いたいたしくも悲惨です。
軽やかに現実を生き抜く女は、そんな男の闘いを知らずにいるというのが、なんとも皮肉ですね。。。

通常の映画の2倍にあたる300日の撮影期間中、グナムを演じたハ・ジョンウは一度もヒゲをそらなかったそうです。
どんどん荒んでいき、目がどんどん目立っていく彼の佇まいからは、身を削って役に入り込んでいる様子がよくわかります。

そしてもう一人、忘れてはならないのは、犬商人・ミョンを演じたキム・ユンソク。
体重を8キロ増やして撮影に臨んだという彼の身の毛のよだつような悪役ぶりは必見です。
ミョンのこの得体の知れない迫力があってこそ、グナムのドラマに深みが出たと言えるでしょう。

実は、この作品はナ・ホンジン監督の才能に惚れ込んだというFIP（フォックス・インターナショナル・プロダクションズ）の出資を受けて製作され、さらにはナ・ホンジン監督自身ハリウッドでリメイクすることも決定しているそうです。

キム・ギドク監督、ポン・ジュノ監督らに続く、韓国ノワール映画の担い手として、これからも注目しておきたい監督の一人ですね。

『哀しき獣』（140分／韓国／2010年）
原題：황해／黄海
英題：The Yellow Sea
公開：2012年1月7日
配給：クロックワークス
劇場：シネマート新宿ほか全国にて
監督・脚本：ナ・ホンジン
出演：ハ・ジョンウ／キム・ユンソク／チョ・ソンハ／イ・チョルミン／カク・ピョンギュ／イム・イェウォン／タク・ソンウン／イーエル／チョン・マンシク
公式HP：http://kanashiki-kemono.com/

許されざるもの（字幕版）