【映画レビュー】劇場版「鬼滅の刃」無限列車編

2020年、コロナ禍で消沈した日本映画界に、一種の活気を与え、いつの世も人間はエンターテインメントを求めているのだと改めて気づかせてくれた映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』。

既に、『千と千尋の神隠し』が持つ日本の映画興行収入の記録を塗り替え、第93回アカデミー長編アニメ映画賞の選考対象にも選ばれています。（ノミネートされるかどうかの選考対象ということで、ノミネートされたわけではありません。）

コミックスもシリーズ累計で1億2000万部を突破したお化けコンテンツとなった「鬼滅の刃」。
テレビシリーズから続くアニメ作品では、原作者の吾峠呼世晴が描いた人間の脆さと強さを描く骨太な物語を、ufotableがCGなどの現代の技術を活かした独特で美麗なアニメーション表現で描き出しています。

私自身はこの映画のヒットによってテレビシリーズを追いかけ、その後コミックスに入ったニワカなのですが、すっかりハマってしまいました。
煉獄さん……（号泣）。

テレビで展開しているアニメシリーズで展開された「竈門炭治郎 立志編」、「那田蜘蛛山編」、「柱合会議・蝶屋敷編」の続きとなる「無限列車編」を描いた『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』。

鬼殺隊新人の竈門炭治郎（そして禰豆子）、我妻善逸、嘴平伊之助らは、鬼がいるという無限列車の任務を受け、無限列車に乗り込みます。
先発していた炎柱・煉獄杏寿郎と合流し、下弦の壱・魘夢と戦うことになるのです。

そこで、魘夢の術にはまった剣士たちは、一度はそれぞれの夢の世界に入り込んでしまいます。
しかし、禰豆子の力とそれぞれの精神力で魘夢の血気術を跳ね返し、目を覚まして戦うのです。

ここでは剣士たちそれぞれの心の中にある“核”や、その“核”を成すに至った、彼らの家族や生いたちが描かれます。

ここでやはり注目すべきは、煉獄杏寿郎の生いたちでしょう。
歴代の炎柱を輩出する煉獄家に生まれた彼は、自身も先代の炎柱である父・槇寿郎の跡を継ぐべく、剣の修行に励みます。
しかし父は気力を無くして突然剣を捨て、杏寿郎にも冷たく当たるようになるのです。

そんな中でも杏寿郎は、母の「強く生まれた者には責務がある」という遺言を胸に、弟や部下の剣士たちにも明るく快活に対応するのです。

その強さ、正しさは、死を前にしても変わりませんでした。
魘夢を倒した後に現れた、上弦の参・猗窩座と戦い「お前も鬼にならないか？」と誘われながらも、全く揺らぐことはありませんでした。
目をつぶされ、腕を斬られながらも、鬼殺隊の柱としての矜持を見せつけ、誇り高く死んでいくのです。

その煉獄さんの誇り高き死が、この後の炭治郎、善逸、伊之助らを導くことになります。
剣士とは、そして柱とはいかにあるべきか。強い力を持った者はどう生きるべきか。
煉獄さんは、まさにその身をもってして、炭治郎たちに最も重要なことを教えたのです。

この劇場版では、原作のコミックスよりも、さらに煉獄さんの情熱や信念が伝わってくるように描かれています。
長い物語の中の一部であるこの「無限列車編」ですが、一本の独立した映画としても十分楽しめるのは、その煉獄さんの強いリーダーシップやヒーロー性をしっかりと描き、彼の物語が際だっているからと言えるでしょう。