ジヌよさらば ~かむろば村へ~
松田龍平、現代の日本映画界においては他に類を見ない、貴重な俳優です。
普通にしていれば、実はものすごくカッコいいはずなのに、役に入り込むと、彼にしかできない、奇妙で唯一無二なキャラクターを見事に作り上げてしまう…。
『舟を編む』のマジメくんや、『まほろ駅前多田便利軒』の行天、ドラマ「あまちゃん」のミズタクなど、彼の当たり役は多いですが、本作『ジヌよさらば ~かむろば村へ~』のお金恐怖症の青年・タケ役もまた素晴らしいです。
お金に触れた途端ロレツも回らなくなり、あの長い手足を硬直させながらギクシャクと動く様と言ったら、もう。
まさに彼が持って生まれた“ギフト”を感じさせてくれました。
松尾スズキが監督、脚本を手がけた本作『ジヌよさらば ~かむろば村へ~』、全体的にとても面白く、他の俳優さんの演技も良かったのですが、松田龍平の演技が素晴らし過ぎて、ついつい彼ばかりを追ってしまったのでした。。。
<STORY>
東北地方のかむろば村に、高見武晴という若い男がやって来た。村長の与三郎は、1円も使わず自給自足で暮らすと言う彼に呆れてしまう。与三郎は高見をタケと呼び、妻の亜希子と共に彼の世話を焼くのだった。実は高見は銀行員をしていたが、“お金恐怖症”になってしまったと言うのだ。タケは600万入った預金通帳を捨て、本当にお金を使わずに暮らそうとしていた。そんなタケを女子高生・青葉や、“神様”ことなかぬっさんら、村人たちは半ば呆れつつも優しく見守っていた。
<解説>
この作品のタイトルとなっている「ジヌよさらば」とは「銭よさらば」ということ。
銭と別れて、なにも買わず、なにも売らず、ただ生きていこうとする青年・タケの志のことです。
お金恐怖症となったタケは、お金を使わない生活を目指して、過疎化が進み、高齢化率40%のかむろば村にやって来ます。
しかし、どんなに田舎と言っても、しょせんは人間社会。
お金も必要だし、ややこしい政治もあるし、人間同士の揉め事だってあります。
そんな田舎にやって来たタケを、村長の与三郎(阿部サダヲ)はほっておくことができません。
彼は、ある理由から、“自分”を捨てた男。
自分を捨て、村長となった彼は、人から頼まれるうと絶対に断れない男。
村人のためにみずからマイクロバスを運転して村を走り回っています。
タケは、この与三郎や、彼の妻の亜希子(松たか子)、カメラを持っては人間の暮らしぶりをカメラに収めている不思議な“神様”ことなかぬっさん(西田敏行)や、何を考えているのかわからないお金が大好きな女子高生・青葉(二階堂ふみ)たちに見守られつつ、なんとかお金を使わずに暮らしていきます。
そして、タケの登場により、田舎の村でひっそりと村長をしていた与三郎の生活にも、変化が起こるのです。
みんながみんな、お互いに影響を与え合って、それぞれの人生が少しずつ変化を遂げていくのです。
ものごとはきっとなんとかなる。
思ったとおりにはいかないけれど。
この映画『ジヌよさらば ~かむろば村へ~』を観ていると、そんな言葉がストンと胸に落ちてきます。
世の中には不思議なこともあるし、思ったとおりにはいかないけれど、思ってもいなかった方向に落ち着くことがあるものです。
ギクシャクしつつも力の抜けた松田龍平、パワフルな阿部サダヲ、女性の明るさや強さを体現するかのような松たか子らの演技に、笑わせられつつ、人間が持つ“強さ”のようなものを感じさせてくれる一作です。
『ジヌよさらば ~かむろば村へ~』(121分/日本/2015年)
公開:2015年4月4日
配給:キノフィルムズ
劇場:新宿ピカデリーほか全国にて
原作:いがらしみきお
監督・脚本・出演:松尾スズキ
音楽:佐橋佳幸
出演:松田龍平/阿部サダヲ/松たか子/西田敏行/片桐はいり/中村優子/村杉蝉之介/伊勢志摩/オクイシュージ/モロ師岡/田中仁人/宍戸美和公/近藤公園/荒川良々/皆川猿時/二階堂ふみ
Official Website:http://www.jinuyo-saraba.com/
小学館
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