【映画レビュー】インサイド・ヘッド / Inside Out

インサイド・ヘッド [DVD]

ピクサー20周年記念作品となる『インサイド・ヘッド』
12歳の少女の頭の中で、感情たちが繰り広げる大冒険を描く本作。

プロットだけを聞くと単純な物語のように聞こえますが、その“経験を思い出に変えるシステム”、“思い出を忘れていくシステム”、“妄想ボーイフレンドの製作システム”、“イマジナリーフレンドの存在”など、その描写の細かさと創意工夫の豊かさは、さすがピクサーと言ったところ。

子どもの時間が終わり思春期に入る11歳の少女の、喜びも哀しみもより深く複雑なものに変化していく様子が、愛情たっぷりに描かれています。

<STORY>
アイスホッケーが大好きな11歳の女の子、ライリーの頭の中には、ヨロコビ、カナシミ、ムカムカ、イカリ、ビビリという5つの感情があり、脳内の司令室でライリーが幸せに過ごせるよう、日々奮闘していた。ある時、ライリーはパパの仕事で引っ越すことに。司令室ではカナシミがライリーの思い出ボールを触って悲しい思い出に変えてしまった。ヨロコビは、カナシミを阻止しようとし、その拍子に司令室から深層心理の部屋に落ちてしまう。

<解説>

インサイド・ヘッド オリジナル・サウンドトラック

両親に愛されてすくすくと育ってきた快活な11歳の少女・ライリーは、父親の仕事の都合でミネソタの田舎町からサンフランシスコに引っ越すことに。
パパとママと車の旅をしてたどり着いたのは、あまりきれいじゃないアパートメント。
しかも、手違いで家具を乗せたトラックが到着せず、しばらくベッドもない生活をしなければならなくなります。

このライリーの頭の中では、司令室で5つの感情が存在していました。
ヨロコビ、カナシミ、ムカムカ、イカリ、ビビリ。この5つの感情が、ライリーの気分を作り上げていたのです。

ライリーは、この5つの感情の中、明るく元気に奮闘するヨロコビのおかげで、喜びを多く感じる楽しい人生を送ってきました。
でも、サンフランシスコへの引っ越しで、今までそれほど感じたことのない感情に支配されるようになったのです。それは、カナシミ。

知っている友だちもおらず、学校に行ってもうまくあいさつもできないライリーは、なんだか悲しい気持ちになってしまいます。
それは、頭の中の司令室で、カナシミがライリーの感情を触ってしまったから。
ライリーを楽しい気持ちにさせたいヨロコビは、カナシミをライリーの感情や記憶から遠ざけようとするのですが、その結果、一緒に司令室の外に放り出されてしまうのです。

ここで描かれる、頭の中の世界は、とてもユニークかつ納得できるもの。
司令室から届く、あまり重要でない記憶がたくさん積み重ねられています。
これらの記憶、たまーに思い起こされることはあっても、基本的には重要ではないものたち。
だから、ある程度の期間で、記憶たちは整理され、いらないものとされた記憶は忘れ去られてしまうのです。

この記憶の倉庫の中でヨロコビとカナシミを助けてくれるのは、ライリーの幼い頃のイマジナリーフレンドで、ピンクの象のような姿をした、ビンボンです。
このイマジナリーフレンドというのは、いわゆる“子どもにしか見えていない、想像上の友だち”のこと。
目には見えないけれど、子どもにとっては実際にそこにいる存在で、でもその子どもが成長すると忘れられてしまう…そんなお友だちなのです。

そんな、ライリーの幼い頃の大親友が、ライリーのためにヨロコビとカナシミを手助けしてくれます。
このビンボンのライリーへの愛は、かなり感動的。
目には見えないけれど、幼い頃を一緒に過ごした友だちは、その子のことをずっと思っているものなのですね。。。

こうして、ヨロコビとカナシミが司令室に戻ろうと奮闘している間、イカリ、ムカムカ、ビビリの3人が司令室を守っていました。
ライリーを幸せにしようと頑張ってはいるものの、基本的に対人的にはマイナスとなる感情の3人が舵をとっているため、ライリーの感情は不安定に。
パパやママにも反抗的な態度を取り、新しい学校では友だちもできず、孤立していくばかりです。

でも、この反応って、よく考えてみれば11歳くらいの思春期に入った少年少女にとっては、よくあるもの。
ライリーの場合は引っ越しで環境が激変したということで、多少極端な反応になってはいますが、ある意味、どの子どもたちの頭の中でも起こっていておかしくないことなのです。

実はこの作品、ピート・ドクター監督自身の娘さんへの思いが作品のヒントになっているそうです。
『カールじいさんの空飛ぶ家』でエリーの声を演じたピート・ドクター監督の娘さんが11歳になった頃、突然、おとなしくなり、不機嫌になってしまったそうです。
そんな時に監督は、「彼女の頭の中で何が起こっているのだろう?」と考えたとか。
その気持ちが、この作品『インサイド・ヘッド』の原点となっているのです。

そういう意味では、周囲の大人や両親にどう接していいかわからないライリーの苦しみや混乱は、ある意味誰もが経験してきた成長の一過程とも言えます。
大人になってしまうと、不機嫌で生意気な思春期の子どもを見ると「なんでこんなに機嫌が悪いのだろう」とイライラしてしまうことも多いですが、「今、彼女の頭の中で、ヨロコビとカナシミが行方不明になっているのかもしれない。元に戻ろうと頭の奥の方でもがいているかもしれない」と考えると、ちょっと優しい目で見守れそうな気がします。

ピクサー20周年となるこの作品、そのイマジネーションあふれる映像とキュートなキャラクターは相変わらずで、大人から子どもまで、誰もが単純に楽しめる作品でもあります。
でも、思春期真っ只中の子どもたち、そして思春期の子どもを育てている迷える親たちにとっては、大きなヒントを与えてくれる作品なのかもしれません。
そして、、思春期の子どもたちを育て終わりあの頃を思い出す親たちにとっては、とても懐かしく、愛おしい作品になるのかも…。

『インサイド・ヘッド』(94分/アメリカ/2015年)
原題:Inside Out
公開:2015年07月18日
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
劇場:全国にて
原案・脚本:ジョシュ・クーリー
原作・監督・脚本:ピート・ドクター
共同監督:ロニー・デル・カルメン
エグゼクティブプロデューサー:ジョン・ラセター
プロデューサー:ジョナス・リヴェラ
脚本:メグ・レフォーヴ
プロダクション・デザイン:ラルフ・エッグルストン
音楽:マイケル・ジアッキーノ
日本版主題曲:DREAMS COME TRUE「愛しのライリー」
アソシエイト・プロデューサー:マーク・ニールセン
声の出演:ケイトリン・ディアス/エイミー・ポーラーフィリス・スミスルリス・ブラックミンディ・カリングビル・ヘイダーダイアン・レインカイル・マクラクランリチャード・カインド
声の出演(日本語吹替版):竹内結子大竹しのぶ/伊集院茉衣/浦山迅小松由佳落合弘治花輪英司田中敦子佐藤二朗
Official Website:http://www.disney.co.jp/movie/head.html

 

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