灼熱の魂 / Incendies
主人公の女性・ナワルのあまりに壮絶な人生に、思わず「こんなのんきな人生を送っていてごめんなさい」とあやまりたくなってしまうような衝撃作『灼熱の魂』。
戦争やテロが、いかに過酷な運命を作り出すか、この作品が私に教えてくれました。
平和な世界でのんきに生きている人びとには、ぜひこの作品を観ていただきたいと思います。
<STORY>
カナダで暮らす双子、ジャンヌとシモンの母親・ナワルが急死した。双子は公証人から「あなたたちの父親と兄を捜して手紙を渡して欲しい」という母の遺言を知らされる。双子は今まで知らなかった母の人生を知るために、中東にある母の祖国を訪れ、母の軌跡を追う…。1970年、ナワルはある男性の子どもを身ごもり、男児を出産した後に村を追われた。都会でフランス語を学んだナワルは、非情な虐殺を身近で体験し、やがてテロリストとなる…。
<Cheeseの解説>
ワジディ・ムアワッドの演劇「Incendies」に衝撃を受けたドゥニ・ヴィルヌーヴは、この戯曲を映画『灼熱の魂』として作り上げました。
この映画は、中東を舞台に一人の女性の壮絶な人生を、焼け付くような映像で描き出しています。
彼女の人生を彩るのは、灼熱の太陽、乾いた赤土、銃撃の炎、刑務所のコンクリート…。
中東にいる間、彼女の心の休まる隙はなかったのです。
彼女の祖国がいったいどこなのか、それは映画の中では明らかにされていません。
1970年のレバノン内戦に着想を得ているとのことですが、政治的偏見から逃れるためにも、その具体的な国の名前は隠されているのだそう。
確かに、彼女の人生には“家族による女性蔑視”、“イスラム教徒 対 キリスト教徒の宗教的対立”、“刑務所での人権侵害”など、現代社会では“あってはならない”とされているものに満ちあふれています。
そんな辛い記憶しかない中東の地から出て、カナダに移住し、双子と暮らし始めてから、彼女の人生にやっと平穏が訪れたのです。
カナダの民主主義社会の中で、母のこれまでの人生を知らずに成長して来た双子は、母の死後初めて、母の苦渋に満ちた人生を知るのでした。
観客は、双子と共に、母の人生に起きた衝撃の事実を知り、打ちのめされるのです。
しかし、打ちのめされたとしても、観る価値のある映画です。
平穏な暮らしができる自分たちはとても幸せであるということ、今も苦渋に満ちた人生を強いられている人びとがいるということを、この映画は教えてくれました。
『灼熱の魂』(131分/カナダ=フランス/2010年)
原題:Incendies
公開:2011年12月17日
配給:アルバトロス・フィルム
劇場:TOHOシネマズ シャンテほか全国にて順次公開
原作:ワジディ・ムアワッド
監督・脚本:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
出演:ルブナ・アザバル/メリッサ・デゾルモー=プーラン/マキシム・ゴーデット/レミー・ジラール/ガフール・エラージズ/アレン・アルトマン/モハメド・マジュド/ナビル・サワラ/バヤ・ベラル
公式HP:http://shakunetsu-movie.com/