【映画レビュー】神の子どもたちはみな踊る / All God’s Children Can Dance
村上春樹の短編小説をスウェーデン出身の監督がアメリカで映画化した作品『神の子どもたちはみな踊る』。
阪神大震災後の日本の物語を、ロサンゼルスを舞台にした中国系アメリカ人の物語に翻案しているのですが、この置換が劇的な効果をもたらして、とても良くできた作品に仕上がっています。
個人的に、かなり好き。
村上春樹の作品は、日本語で映画化するより、外国語のストーリーの方がしっくりくるような気がするなあ。
あのもってまわったような大げさなセリフも、字幕で読むぶんには、なぜか素敵に感じるのです。
<STORY>
ケンゴは、ロスのコリアン・タウンで母親のイヴリンと二人暮らしをしている。イヴリンは「再生者教会」の布教活動を熱心に行なっていた。ケンゴのペニスは驚異的に大きいのだが、イヴリンは「それはあなたは神の子だから」と言う。若い頃、イヴリンは左耳が欠けている産婦人科医と付き合っており、完璧な避妊をして、彼とまぐわっていた。だが、イヴリンは何度も妊娠してしまう。産婦人科医はイヴリンの浮気を疑い、離れて行ったという…。
<解説>
「完璧に避妊をしていたのにできてしまった」と母親に告げられたケンゴ。
母のイヴリンは「神の子」だと言うけれど、そんなことは信じられるハズもなく。
ズボンがずり下がってしまうほど、公衆トイレで偶然一緒になった黒人男性に笑われるほど大きなペニスを与えられ。
自らのアイデンティティに自信を持てないケンゴは、左耳が欠けた男を見つけ、後を付け始めます。
なぜなら、母親が「(ケンゴを妊娠した頃に付き合っていた)恋人は左耳が欠けていた」と言っていたから。
自分のアイデンティティを求めて、彼はロサンゼルスの街を彷徨うのです。
彼は、ロサンゼルスのコリアン・タウンに住み、なぜか日本系の名前を持つ中国系アメリカ人。
アメリカ人から見れば区別が付きにくいかもしれませんが、アジアン・コミュニティの中では大きな違いを持つ3つの国の中で揺れている存在なのです。
その上、神の子。
自分がどこから来たどんな存在なのか、わからなくても無理はありません。
ケンゴは、地を揺るがす大地震や、大勢の人間に死をもたらしたテロ事件のあとに、絶対的な安心感を失ってしまった現代人を象徴するキャラクターなのでしょう。
そう言った意味では、日本人が日本を舞台にケンゴを演じるのではなく、外国人俳優が外国を舞台にケンゴを演じたことが、この物語に劇的な効果を与えているのではないでしょうか。
<関連作レビュー>
【本】神の子どもたちはみな踊る / 村上春樹:http://c-movie.jp/book/kaminoko/
『神の子どもたちはみな踊る』(85分/アメリカ/2007年)
原題:All God’s Children Can Dance
公開:2010年10月30日
配給:リベロ+日活
劇場:シネマート六本木ほか全国にて順次公開
原作:村上春樹
監督:ロバート・ログバル
出演:ジョアン・チェン/ジェイソン・リュウ/ソニア・キンスキー/ツィ・マー
公式HP:http://kaminoko-movie.com/
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