【本】楽園 / 宮部みゆき
宮部みゆきの代表作のひとつ「模倣犯」の登場人物・前原滋子が主人公である本作。
「模倣犯」の事件から9年後のできごとが描かれています。
事故で亡くなった男の子が遺した絵に隠された謎を追いながら、16年前に起こった哀しい殺人事件の謎を解き明かしていく物語です。
物語は少し複雑なのですが、やはり宮部みゆき作品は面白い!
細部のディテールの細かさに、ついつい引き込まれてしまいます。
「模倣犯」については、物語のスパイスのような使われ方なので、未読でも十分楽しめるかと。
私は8年くらい前に一度読んだっきりで、物語の仔細をほぼ忘れていたのですが、特に問題はありませんでした。
STORY
“死の山荘”事件に関わったライター・前原滋子は、フリーペーパーの編集プロダクションでライターの仕事をを続けていたが、事件に関しては口を閉ざしていた。ある日、滋子のもとに、母ひとりで育てていた12歳の息子を交通事故で亡くした、荻谷敏子という女性が訪ねて来る。敏子は息子の等が描いた絵を見せながら、等の不思議な能力について語った。等が「頭に入ってくる絵をそのまま描いた」という絵のとおりの殺人事件が、等の死後に発覚したというのだ。滋子は、等に本当にサイコメトラーのような能力があったのか、調べることになる…。
感想
この物語は、萩谷等という少年の遺した絵をめぐる物語です。
等の遺した絵には、風見蝙蝠の付いた家の中で静かに眠る、灰色の肌色の女の子が描かれていました。
等の死後、土井崎家という風見蝙蝠のついた家で、長女の茜が両親によって殺され、16年間家の地下に埋められていたという事件が発覚するのです。
等はサイコメトラーだったのか?という母・敏子の依頼に応えるため、滋子は土井崎家の事件が本当に起こったのか、等の絵は本当に土井崎家の事件を描いているのかを調べて行きます。
滋子が、謎をひとつひとつ追いかけて行き、その過程で、各所で起こっていた真実に迫ります。
土井崎家という家庭で何が起こったのか、萩谷敏子はなぜシングルマザーになったのか、土井崎家で何も知らずに育った茜の妹・誠子はどのように育ったのか。
そして、土井崎家の事件を、なぜ等が知ることが出来たのかを調べるうちに、もうひとつの事件を知り、もうひとつの事件に遭遇するのでした。
滋子はがむしゃらに真実に到達しようとしますが、そもそも“真実”などあるのか、ちょっと疑問に思ってしまいました。
家族という密接な関係の中で起こった事件において、すべてを一言で言い表わす簡単な言葉など、ないような気がします。
それぞれの胸の中にある想いは、どうしたって傍からはうかがい知れないものなのではないでしょうか。。。
余談ですが、萩谷等くんの持つ“サイコメトラー”の能力は、「他人の記憶が視覚として見える」というもの。
よく考えると、京極夏彦の「京極堂シリーズ(百鬼夜行シリーズ)」の名探偵・榎木津 礼二郎と同じ能力。
榎木津はこの能力を自身の大きな武器のひとつとし、探偵として唯我独尊の人生を生きていますが、等くんにはこの能力のために哀しい死が訪れてしまいました。
等くんも、もうちょっと生きていられたら榎木津のように唯我独尊に生きられたのでしょうか…。
もしくは、榎木津も、もしかするとこんなふうな切ない体験を何度も積み重ね、あんなキャラクターになってしまったのか…、などと、ちょっと腐女子的な妄想もすすみます。
そういえば、宮部みゆきと京極夏彦は“大極宮”のお仲間。
同じモチーフが、それぞれの作家でまったく違う作品として出力されるというのが、興味深いですね。
大極宮
公式HP:http://www.osawa-office.co.jp/
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