はやぶさ 遥かなる帰還
2003年に小惑星イトカワに向けて発射され、7年かけてイトカワと地球を往復した小惑星探査機はやぶさ。
このはやぶさを描く映画が何作品も作られているというのはニュースでも話題となり、「いかにも日本人受けしそうな題材だからって、そんな何社も飛びつかなくても…」と、ちょっと冷めた目で見ていた私。
もともとはやぶさに対する興味もそれほどなく、あまり食指が動かなかったのですが、この映画『はやぶさ 遥かなる帰還』を観て、そんな自分の偏見を恥ずかしく思ってしまいました。
この映画で描かれているのは、前人未到のプロジェクトを遂行しようとするプロジェクトメンバーたちの努力と、プロジェクトリーダーたちのドラマ。
変に擬人化して「はやぶさ、よく頑張ったね」というようなテイストにせず、お涙ちょうだいの感動のドラマにしなかったことにも好感が持てました。
ビジネスマンたちが観れば、渡辺謙演じるリーダーの姿や、目的のために試行錯誤を繰り返す江口洋介、自分の所属する私企業とJAXA(宇宙航空研究開発機構)の板挟みで悩む吉岡秀隆など、きっと共感できる人物が登場するのではないかと思います。
<STORY>
2003年5月9日、小惑星探査機・はやぶさが宇宙に飛び立つ。はやぶさには小惑星イトカワの岩石サンプルを持ち帰るという世界初のミッションがあった。発射は成功したものの、プロジェクトマネージャーの山口以下開発スタッフたちは、燃料漏れや通信途絶による行方不明などの数々のトラブルに見舞われる。しかし、彼らは諦めず、方策を模索し続けた。その甲斐あってはやぶさは幾多のトラブルを乗り越え、7年の旅を終え、地球に戻ってくる…。
<Cheeseの解説>
実際の“はやぶさプロジェクト”でプロジェクトマネジャーをしていた川口淳一郎教授をモデルにした山口駿一郎を主人公にした本作。
JAXAに所属する軌道の専門家の山口教授(渡辺謙)ほか、JAXAのイオンエンジン担当・藤中仁志教授(江口洋介)、NECに所属するイオンエンジン担当・森内安夫(吉岡秀隆)、JAXAのカプセル担当・鎌田悦也助教授(小澤征悦)らが、知恵を出しあい、トラブルを乗り越え、個々の立場を越えてプロジェクトの目的を達成させるまでを描いています。
2003年5月9日の鹿児島県肝属郡肝付町にある内之浦宇宙空間観測所での発射から、2010年6月13日のオーストラリア・ウーメラ砂漠へのカプセル投下まで、7年もの年月、彼らははやぶさのオペレーションを続けてきたのです。
映画では、プロジェクトメンバーの他にも、朝日新聞の宇宙担当記者(夏川結衣)や、はやぶさのサンプル作成を手伝った町工場の社長(山崎努)も登場します。
彼らの存在が、“はやぶさプロジェクト”がプロジェクトメンバーだけのものでなく、世間一般の人にも夢を与えている“日本に夢を与えるプロジェクト”だということを示し、物語の世界を広げているように思います。
劇中にはさまざまな専門用語が登場しますが、記者が書く解説記事がその都度挿入されるので、宇宙のことを知らない人でも理解しやすくなっています。
はやぶさがどんなミッションを持った探査機で、どのような機能を持っているのか、どんなトラブルが起こっているのかが、映画を観ているだけでだいたい理解できるようになるのです。
ただのサクセスストーリーでなく、山口教授が以前担当した火星探査機・のぞみの失敗とプロジェクト中止などの失敗談も描いているのも、山口教授の悔しさや、それゆえにはやぶさプロジェクトに強いこだわりを持つ理由がよくわかり、よく練られた脚本だなあとうなってしまいました。
決断力、自らが責任を負う胆力、メンバーをやる気にさせる推進力を持ったリーダーと、プロジェクトの成功のためにベストを尽くそうとするメンバーの姿を描いた映画『はやぶさ 遥かなる帰還』。
宇宙への夢を広げ、男たちの仕事に対する熱意を描いた良作だと思います。
『はやぶさ 遥かなる帰還』(136分/日本/2012年)
公開:2012年2月11日
配給:東映
劇場:全国にて
原作:山根一眞
監督:瀧本智行
音楽:辻井伸行
出演・プロジェクトマネージャー:渡辺謙
出演:江口洋介/夏川結衣/小澤征悦/中村ゆり/吉岡秀隆/石橋蓮司/藤竜也/山崎努/嶋田久作/近藤芳正/蟹江一平/笠兼三/橋本一郎/宮下裕治/増田修一朗/永倉大輔/長嶋一茂/モロ師岡/ピエール瀧
公式HP:http://www.hayabusa2012.jp/
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