【映画レビュー】蜘蛛巣城　4Kデジタルリマスター版

2022/10/21 日本映画か行, 映画レビュー

黒澤明監督の1957年の名作映画『蜘蛛巣城』。今回、『蜘蛛巣城　4Kデジタルリマスター版』として4Kデジタルリマスター版が劇場で上映されていたので、久しぶりにスクリーンで観てきました。

『蜘蛛巣城』と言えば、有名なのは終盤のシーン。蜘蛛巣城の上部に立つ三船敏郎を目掛け、矢が次々と放たれるシーンです。

このシーン、やはりスクリーンで観てこそその迫力が体感できるというもの。恐怖に見開かれた三船敏郎の目に、鷲津の混乱と狂気が感じられる、日本映画史上に残る名シーンと言えるでしょう。

STORY

時は戦国。武将の鷲津武時は、蜘蛛巣城の城主・都築国春に仕えていた。ある日、鷲津と盟友である三木義明は蜘蛛巣城へ向かう途中、蜘蛛手の森で道に迷い、ある老婆と出会う。老婆は「鷲津はこの後一の砦の大将となり、やがて蜘蛛巣城の城主となる」と鷲津に告げる。「三木の息子が蜘蛛巣城の城主になる」とも……。予言どおり一の砦の大将となった鷲津は、妻・浅茅にそそのかされ、主君を殺し、自分が蜘蛛巣城の城主となるのだが……。

解説

シェイクスピアの「マクベス」を日本の戦国時代に翻案し、武将たちの下克上をとおして妖に操られる人の心の弱さと醜悪さを描いた映画『蜘蛛巣城』。

三船敏郎演じる武将の鷲津武時は、ある老婆の予言に心惑い、妻の巧言に乗り、主君を殺し、やがては盟友をも裏切ってしまいます。そして、武時と妻の浅茅は、ともに狂っていくのです。

黒澤明監督は、人の心の弱さを描いたこの物語を、能のように描いています。
映画の冒頭と末尾には囃子と謡が状況を説明し、やがて超自然的な存在と思われる謎の老婆がシテ方のように舞踊り、鷲津と三木に運命を告げます。そこから、鷲津の運命は怒涛のように変化していくのです。

そして、物語の半ばでも、山田五十鈴演じる妻の浅茅がシテ方を務める場面があります。ここで、人間だった浅茅は鬼（もしくは異形の者）に変化し、さらに鷲津の運命を変化させていくのでした……。

この『蜘蛛巣城』は、人ならぬ者に惑わされ、運命を変えていく人間の悲劇を描いています。その人ならぬ者は、人間に新たな概念を植え付けたのか、それとも人間が隠し持っていた何かを外に出す手助けをしただけなのか……。
初公開から60年以上の時を経ても、いまだに色褪せない、すさまじい熱量で“人間”を描いた物語と言えるでしょう。