【映画レビュー】17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン / Der Trafikant

Der Trafikant

第二次世界大戦前夜、ドイツに併合される直前のオーストリア、ウィーンにやってきた17歳の青年が、人生の第一歩を踏み出していく姿を描いた映画『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン』

“頭を治す医者”こと精神医学の大家ジークムント・フロイトブルーノ・ガンツが演じています。2019年の2月に亡くなった彼の晩年の演技は素晴らしいもの。

リビドーに悩むフランツにフロイト博士が与えるアドバイスの一言一言は、なんでもない言葉だからこそ、真実の重みがたっぷり詰まっています。

若き日に素晴らしいメンターと出会うことの素晴らしさ、抗えない時代の並みに飲み込まれる市民のやるせなさを、ほろ苦く描いていた一作です。

<STORY>
1937年、第二次世界大戦前夜のウィーン。自然豊かなアッター湖のほとりで育った17歳のフランツは、ウィーンのタバコ店で働くことに。初めての都会で、フランツはさまざまな人と出会う。第一次世界大戦で片足をなくした店主のオットーさんは、自由な政治信条の持ち主。顧客には精神分析医として有名なユダヤ人のジークムント・フロイト博士もいる。フランツはボヘミア出身の女性・アネシュカに恋をし、フロイト博士に相談するが…。

<解説>
アドルフ・ヒトラー率いるナチス・ドイツにより、オーストリアは1938年にドイツに併合されました。

この映画の舞台となるのは、そんな時代のウィーン。
ウィーンの街をナチ親衛隊が歩き、ユダヤ人を差別する風潮が強まって来ています。
のどかな田舎のアッター湖畔で育った主人公のフランツには、ウィーンは良くも悪くも刺激に満ちていました。
“味わいと快楽を売る”というタバコ屋で、フランツはタバコを吸うマダムと会話し、ヌード写真が密かに販売されていることを知り、葉巻の愉楽が人生をいかに彩るかを知るのです。

そんな中でフランツが出会ったのが、精神科医のジークムント・フロイト博士。
年老いてがんを患ったユダヤ人の彼は、ナチスの台頭の前にロンドンに亡命しようとしていました。

そんなウィーン最後の日々に出会ったのが、純朴で素直な17歳のフランツ。
初めての恋に焦がれ、リビドーを持て余す彼に、人生を謳歌するよう、恋を楽しむようにアドバイスをしていきます。
フランツにとってフロイト博士は偉大なメンターでした。

さらに、フランツには大事なメンターがもう一人いました。それは、タバコ店店主のオットーさんです。
オットーさんは第一次世界大戦で片足を失った傷痍軍人。タバコ、新聞、雑誌、文具、そしてヌード雑誌なども扱う小さなタバコ店を経営しています。(この頃のオーストラリアでは、傷痍軍人や軍人未亡人などにタバコ店の経営権が与えられ、社会救済的な一面を持っていたそうです)

このタバコ店は小さなものですが、フランツにとっては初めて体験する外の大きな世界でした。
独自の哲学を持ったオットーさんは、タバコ店の経営について、お客さんとの付き合い方について、葉巻の管理方法、そして精神の自由なあり方などについて、フランツにさりげなく示してくれていたのです。

しかし、時代は大きく変わっていきます。
オーストラリアはドイツに併合され、ナチス親衛隊が街に台頭します。

ナチスに与しないオットーさんは近所からも目の敵にされ、オーストリア・ナチ党に逮捕されてしまうのです…。

こんな時代の中、否応なしにフランツは大人になっていきます。
動物や虫の死体を集めたり、何かあると湖の中に逃げ込んで水にもぐっていた彼ですが、水の中にもぐっているだけでは何もならないことに気づくことになるのです。

彼の青春や恋は、苦い結末を迎えます。しかしこの時代には、フランツだけではなく、誰もが、人生を時代に翻弄されてしまっていたのでしょう。
どんな時代にも人は生き、悩み、そして成長していく…。
時代に翻弄されながらも、フランツが必死で成長していく姿に、人の営みというものを感じることができる、ほろ苦い名作映画と言えるでしょう。

 
『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン』(113分/オーストリア=ドイツ/2018年)
原題:Der Trafikant
英題:The Tobacconist
公開:2020年7月24日
配給:キノフィルムズ
劇場:Bunkamura ル・シネマほか全国にて
原作:ローベルト・ゼーターラー「キオスク」
監督・脚本:ニコラウス・ライトナー
脚本:クラウス・リヒター
音楽:マティアス・ヴェーバー
出演:ジーモン・モルツェ/ブルーノ・ガンツ/ヨハネス・クリシュ/エマ・ドログノヴァ/レジーナ・フリッチ/カロリーネ・アイヒホルン/ザビーネ・ヘルゲート/ゲルティ・ドラスル
Official Website:https://17wien.jp/

Der Trafikant
Der Trafikant

posted with AmaQuick at 2020.07.09
()
4.3outof5stars
¥1,744
キオスク (はじめて出逢う世界のおはなし オーストリア編)
ゼーターラー,ローベルト(著), Seethaler,Robert(原著), 進一, 酒寄(翻訳)
東宣出版 (2017-06-01T00:00:01Z)
5.0outof5stars
¥2,090
The Tobacconist
The Tobacconist

posted with AmaQuick at 2020.07.10
Seethaler, Robert(著), Collins, Charlotte(翻訳)
Anansi Intl (2017-09-05T00:00:01Z)
4.2outof5stars
¥1,889
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