【映画レビュー】オデッセイ ／ The Martian

事故により死んだと勘違いされ、一人火星に取り残された宇宙飛行士、マーク・ワトニーの姿を描く本作。
火星に取り残された彼は、とりあえず地球との連絡手段もない中で、まずは4年後の“アレス4”の火星到着を待つため、4年分の食料作りに励みます。

彼は自分の毎日の行動を、ムービーログとして記録していました。
ユーモアたっぷりに自分の考えや予定、行動を語り、記録していきます。
ある意味、このログが彼の精神的支柱になっていたのかもしれません。

一方で、地球側も、ワトニー生存の事態に気付き始めます。
そして、過去に火星にやってきていたマーズ・パスファインダーを見つけたマークは、その通信機能を回復させて地球と連絡することに成功するのです。
そうやって、なんとか地球と火星での意思の疎通もできるようになり、マークの火星ライフも充実してきたかと思われたのですが。。。

この映画で描かれるのは、マーク・ワトニー一人の戦いではありません。
彼を帰還させるためあらゆる方策を練るNASAの科学者たち。
ワトニーを置き去りにしてしまったことを悔やみ、彼のために命をかけようとする“アレス3”のクルーたち。

誰もが、自身の持てる知恵やパワー、コネクションを駆使し（なんといってもあの中国の航天局まで動かしてしまうのです）、マークを生還させるために戦うのです。
でも、彼らのプロジェクトにはけっして悲壮感はありません。

そこにあるのは、プロフェッショナル同士の信頼関係と、場を和ませるユーモア。
宇宙という極限状態で生きる訓練を積んだNASAの人たちは、生き延びるために必要なのは何よりも平常心とユーモアだと、わかっているのかもしれません。

私がこの作品を見ていて不思議だったのは、ほとんどといっていいほど、宗教色を感じさせないこと。（むしろ、十字架を削って燃やしちゃってたりします）
マークが生き延びるのも、決して“偉大なもののご加護”などではなく、本人と周囲の人間の持つ精神力と科学なのです。
こういう、宇宙という人智を超えた絶対的な孤独の中の物語を描こうとすると、ついつい（たとえ特定のものではなくとも）宗教色が出てきそうなものですが…、これはやはり、宇宙飛行士にとっては“科学こそが絶対”ということを示しているのでしょうか。

考えてみると、リドリー・スコットの前作『プロメテウス』なども、“エイリアン”への信仰心は強く感じましたが、いわゆる既存の宗教への信仰心はあんまり感じさせないものでしたね。
リドリー・スコット自身も、現実のみを信奉するリアリストなのかもしれません。

原作未読のため、そこまで把握はできていないのですが、原作者のアンディ・ウィアーがどういう描き方をしているのかも、気になるところです。