【映画レビュー】それでも夜は明ける ／ 12 Years a Slave

『SHAME －シェイム－』のスティーヴ・マックイーン監督が、自由黒人（freedman）ながらも、誘拐されて12年間の奴隷労働を余儀なくされた実在の人物、ソロモン・ノーサップの物語を描いた映画『それでも夜は明ける』。
（言わずもがなかもしれませんが、このスティーヴ・マックイーン監督は、俳優のスティーブ・マックイーンとは別人です）

本来ならば自由に生きる権利を持つ自由黒人なのに、誘拐されて奴隷となったソロモン・ノーサップ。
最初に買われた主人・フォード氏は優しい人間だったものの、フォード氏にとってソロモンは所有物でしかありません。
ソロモンが面倒を起こすと、エップス氏に売ってしまいます。
エップス氏は、奴隷を動物くらいに思っている男。
気に入らないことがあれば奴隷を鞭打ち、若い女性奴隷をえこひいきした上、性的に慰み者にします。

ソロモンを演じるキウェテル・イジョフォーは、音楽という技能を持ち知的な人間である主人公を、気高く演じています。

そんなソロモンの最初の主人である、優しいけれど、やはり奴隷を奴隷としか思っていないフォード氏を演じるのは、今大人気のベネディクト・カンバーバッチ。
そして、残忍な二番目の主人・エップス氏を“世界一ハンサムな男”、マイケル・ファスベンダーが演じています。

フォード氏もエップス氏も、それぞれに家族を持ち、人生の悩みを抱えた普通の男たち。
現在の我々の目から見るとひどい男ですが、1800年代のアメリカ南部では、彼らのような考え方は当たり前だったのでしょう。

でも、奴隷を奴隷扱いするエップス氏もひどいと思ったのですが、私は主人公のソロモン・ノーサップも恐ろしく感じました。
彼は、「自分は“自由黒人”であり、奴隷になる人間ではない」と考えていました。
彼が“自由黒人”だったからこそ、12年で奴隷生活から抜け出ることができるわけですが、“自由黒人”ではない黒人奴隷は、奴隷生活から抜け出ることはできません。

“自由黒人”と“黒人”は違うものだと考える、その考え方にも人種差別は潜んでいるように思います。
そここそが、私には恐ろしく感じられたのでした。。。
実在したソロモン・ノーサップは、救出された後、奴隷解放運動に身を捧げたそうです。

アメリカが抱える奴隷制度という歴史の暗部を描く問題作『それでも夜は明ける』、人間の意志の力に対する感動と共に、微かな戦慄も覚えた作品でした。
奴隷たちの歌う曲「ロール・ヨルダン・ロール」が、強く心に迫ります。