【映画レビュー】ピアノマニア ／ Pianomania

ピアノの調律というものは、一般の人にはあまり馴染みがないもの。
私の家にあったピアノなんて、1～2年に1回しか調律してなかった気がします（しなさすぎ？）。

しかし、プロの演奏家にとっては、演奏前の調律というのはとても大事なものなのだそうで、“演奏家の望む音”をつくるため、前もって何日もかけて調律をするそうです。
どのピアノがいいかを選ぶところから始め、演奏環境にあったピアノを何台か用意し、その何台かを調律しその中から、演奏家のイメージにあった音を持つピアノを選ぶのだそう。

このドキュメンタリーの主人公・シュテファンは、様々な試行錯誤を繰り返し、ピアノを仕上げていきます。
しかし、「これは違う」と演奏家からさらなる要求を突き付けられ、NGをくらうこともしばしば。
しかしシュテファンは、一瞬複雑な表情を見せることもあるものの「わかった」と応じ、機嫌良く新たに調律を始めます。

この“機嫌良く”調律を進めていく様子に、私は思わず感動してしまいました。
自分の仕事を否定されると、人はつい不機嫌になりがちなものです。
しかし、シュテファンにはそういうことがあまりない。

それは、自分の仕事の最終目的がはっきりわかっているからなのでしょう。
自分の小さなプライドを守って小さくまとまるのではなく、演奏家たちの要求に完全に応え、素晴らしい音を創り出すことで、演奏家のベストパフォーマンスを引き出す。
そうやって唯一無二の演奏を引き出すことが、彼にとっての大きなプライドなのです。

その“音の芸術家”であろうという姿勢に、思わず胸を打たれました。
そんなシュテファンだからこそ、多くのピアニストたちに信頼され、スタインウェイ・アンド・サンズの技術主任という地位を獲得したのでしょう。

一流のピアノ調律師、シュテファン・クニュップファーの仕事を堪能できるこの作品、音楽に携わる人はもちろんですが、音楽とは関係のない仕事をしている人でも、きっと感じるものがあるはずです。

そういえば、ヨハン・ゼバスティアン・バッハの「フーガの技法」をピエール＝ロラン・エマールがレコーディングしていくのですが、ああいうホールで演奏してレコーディングしているということに驚きました。スタジオで録音するわけではないんですね。
他にも、ラン・ランやティル・フェルナーといったピアニストたちのオフショットなども見られるので、クラシック・ファンの方にはたまらないのではないでしょうか。