【映画レビュー】8 1/2 / Otto e mezzo
これまでに単独で映画8作、共同監督として1作を制作してきたフェデリコ・フェリーニによる10作目(9.5作目)の映画『8 1/2』。タイトルは“はっかにぶんのいち”と読みます。
マルチェロ・マストロヤンニを主演に迎えたこの作品、創造の泉が枯れてしまった映画監督の悲哀をファンタジックに描いています。
この映画以前に作ってきた8 1/2作の制作期間、フェデリコ・フェリーニはグイドのような気持ちを味わってきたのかもしれませんね。。。
STORY
映画監督のグイドは温泉へ保養にやってくる。かつて大ヒットを飛ばした彼だが、新作のアイディアがまったく浮かばない。しかし、プロデューサーやスタッフたちもグイドのもとにやってきて、次の映画の詳細を知らせるように迫ってくる。グイドは初めて性を意識した女性サラギーナなど、かつて愛した女性たちのことを取り止めもなく思い出すのだった。やがて愛人のカルラや妻のルイザまでやってきて、彼はますます追い詰められていく……。
解説
フェラーリの代表作の一つでもある本作。
1964年の第36回アカデミー賞で外国語映画賞、衣装デザイン賞(白黒)(ピエロ・ゲラルディ)を受賞しています。
この映画を原案としたミュージカルやその映画化作品『NINE』(2009年)もあるので、近年ではこちらの作品を見ている人も多いかもしれませんね。
主人公は43歳の有名な映画監督グイド・アンセルミ(マルチェロ・マストロヤンニ)。
映画監督として名をなしてきていますが、次回作の制作を前に、まったくアイディアが浮かばず、しかし撮影期間は迫ってきて、追い詰められていきます。
さらに、実生活においても、彼は追い詰められていきます。
温泉地にやってきたものの、知り合いの多いその場では愛人・カルラ(サンドラ・ミーロ)と出歩くこともできません。
自分の逗留するホテルとは別の安宿に宿泊させているカルラは、熱を出したり夫の仕事を頼んできたりとグイドを困らせてきます。
その上、妻のルイザ(アヌーク・エーメ)も温泉地にやってきて、カルラと鉢合わせ。グイドを青ざめさせるのです。
役欲しさにうるさい女優が言い寄ってくるし、プロデューサー(グイド・アルベルティーニ)はせっつくし、友人(マリオ・ピスー)は若い恋人・バーバラ(バーバラ・スティール)とよろしくやっているし……。
温泉地にいるはずなのに、グイドは気の休まる暇はありません。
映画のアイディアは浮かばないのに、グイドの頭の中には幼い頃からの思い出は次々に浮かんできます。
若き日の両親。幼い頃の葡萄酒風呂の思い出。
海辺で暮らす娼婦のサラギーナ(エドラ・ゲイル)とダンスし、神学校の教師で怒られた記憶。
そして、現実逃避のように、今まで愛した女性たち、彼を取り巻く女性たちとのハーレムのような夢も見ます。
憧れの美女・クラウディア(クラウディア・カルデナーレ)やサラギーナ。
妻のルイザに愛人のカルラ。友人の恋人のバーバラ。
そこで彼は暴君のように鞭を振るいますが、それは夢の中だけ。
現実に戻れば、何も思い浮かばないのに製作者やスタッフから次回作について説明を求められ、妻と愛人の板挟みとなり、マスコミへの会見もしなければならないという、困った現実が待っているのです。
やがて映画のオープンセットも完成し、製作発表も行われますが、彼は逃げ回ります。
そして「人生は祭りだ」と、彼は人生に登場してきた皆と一緒に、輪になって踊り始めるのです……。
ラストには、グイドの死を示唆するようなシーンも挿入されています。
グイドは死んだのか? この部分は、人によって解釈が別れるところでしょう。
私は、フェリーニは悩めるグイドを殺すことで、生まれ変わらせたのだと考えます。
死ぬまで悩み抜くことで、より高次の次元へと辿り着くことができる……。
グイドが生まれ変わることは、すなわちフェリーニが生まれ変わることでもあるのです。
『道』や『甘い生活』で成功を収めたものの、次回作へのプレッシャーや創作の苦しみから羽ばたくために生まれたフェリーニにとってのパーソナルな映画、それが『8 1/2』なのではないでしょうか。
作品情報
『8 1/2』(140分/イタリア・フランス/1963年)
原題:Otto e mezzo
監督・脚本:フェデリコ・フェリーニ
脚本:トゥリオ・ピネリ/エンニオ・フライアーノ/ブルネッロ・ロンディ
音楽:ニーノ・ロータ
美術・衣装:ピエロ・ゲラルディ
出演:マルチェロ・マストロヤンニ/アヌーク・エーメ/サンドラ・ミーロ/クラウディア・カルデナーレ/バーバラ・スティール/マドレーヌ・ルボー/グイド・アルベルティーニ/エドラ・ゲイル/ロッセーラ・ファルク/マリオ・ピスー/ジョージア・シモンズ/アンニバーレ・ニンキ/ジュディッタ・リッソーネ/カテリーナ・ボラット/ジャン・ルゲール/ロセッラ・ファルク
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